中高で浮いていた東大法学部卒のエリート 価値観を変えた教授との出会い
2019/10/30 19:00
兵庫大学の金子哲教授=加古川市平岡町新在家
■兵庫大教授 金子哲さん(58)
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東京大学法学部を卒業したエリートも、若い頃は心にもやっとした気持ちがあった。テストでは高得点、生徒会長を務め、一目置かれた存在。将棋を楽しむ友達もいた。「でも、周りから浮いてる感覚がずっとあった」
北海道函館市出身。幼い頃から本が好きで、小説や歴史本などを読んだ。小学生になると宿題をせず先生を困らせる“異端児”に。自分の意見を曲げないため、周囲から「腹立つ」と難癖をつけられた。
中学高校では、集団の中で自分の「立ち位置」が定まらなかった。高校卒業の時。担任教諭へのプレゼントは、時計に決まりかけていた。が、自分の放った言葉で空気が一変した。「法律で公務員への贈り物は禁止されている。物を贈るにしても、酒とか手元に残らない物がいいんじゃないか」
結局、多数決で時計に決まった。「こんなことがたくさんあって、他人のまなざしが痛かった。でも、周りに合わせるのは嫌で」
集団で生きるすべを考えた結果、たどり着いたのが「日本で一番勉強ができる」とされる東京大学だった。世間的に優秀と見られることでプライドを保てる。排除されず、何者かになれるのでは…。
その価値観は一つの出会いで大きく変わった。
ある歴史の講義で、教授の第一声は「今日は、虹が立つところに市が立つことを証明したくて…」だった。虹が出た場所に市場を開くという中世の慣習。「何を言ってんだ」と心の中で突っ込みながらも話に引き込まれ、知識の量に圧倒された。
その風変わりな教授と付き合ううちに「自分は集団の中の1番ではなく、オンリーワンになりたかったんだ」と気づいた。教授の勧めで歴史の道に進み、今は東播地域での研究に没頭する日々だ。
いじめや引きこもりのニュースを見て、ふと思う。帰属する集団を高評価しすぎて、個人が小さくなっていないか、と。
「何か一つでも秀でよと言われても、みんなができるわけじゃない。トップになれなくても、集団に無理に溶け込まなくてもいい。馬が合う友人や良き指導者を見つけることができれば、きっとどこかに導いてくれるはず」(山脇未菜美)