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此花区側の入り口・左側にある巨大な扉はかつて使われていた自動車用エレベーターの入り口
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此花区側の入り口・左側にある巨大な扉はかつて使われていた自動車用エレベーターの入り口

大阪市此花区と西区の間を流れる安治川の河底には、河を渡るためのトンネルが掘られている。戦時中の昭和19年に竣工し、今も住民の生活から切り離せない「安治川隧道(ずいどう)」の秘密を探る。

■一見すると物流倉庫みたいな外観のトンネル入り口

JR環状線「西九条」駅から徒歩数分、古ぼけた外観の鉄筋コンクリート造りの物流倉庫みたいな建造物がある。1階部分に地下へ下りる階段と大きめのエレベーターがあって、徒歩や自転車で乗り付けた人たちがエレベーターに乗り込んでいく。階段を使う人はほとんどいない。

ここが知る人ぞ知る「安治川隧道」の入り口だ。エレベーターで河底のトンネルまで下りて、対岸にある同じ建造物のエレベーターで地上へ上がる仕組みになっている。安治川を渡るためだけに掘られた「河底トンネル」なのだ。誰でも無料で利用できて、24時間監視付きで防犯対策もとられている。

階段からトンネルへ下りてみる。一般的なビルの2~3階分ほど下りたらエレベーターの降り口と合流する。

トンネルの幅は2.4メートル。中はひんやりとして涼しく、肌に触れる空気はやや湿っぽい感じ。壁面、路面、天井は白を基調とした配色で、照明の光がよく反射して、思いのほか明るい。対岸まで80.6メートルあるトンネルの真ん中付近に監視員が1人立っていて、通る人たち1人ひとりに対して「こんにちは」と声をかけていた。

対岸は西区だ。エレベーターで地上へ上がって気が付いた。トンネルの入り口になっている建造物は、鏡に写したように左右が逆につくられている。此花区側は向かって右から階段、エレベーターの順に配置されているが、西区側は左から階段、エレベーターの順になっている。

■開かずの自動車用エレベーターと車道

人と自転車を載せるエレベーターの横に、2基のもっと巨大なエレベーターがある。これは自動車用のエレベーターで、トラックは1台、小型車なら一度に2台を運べたという。トンネルは幅4.5メートルの車道が2車線あり、対岸に着いたら再びエレベーターで地上へ運ばれる仕組みだった。つまり歩道と並行する車道があるのだ。入口の建造物が左右対称につくられている理由である。

昭和28年頃に作成された資料「安治川河底隧道概要」に、昭和24年6月15日から通行料の徴収を開始したことと、その後26年11月1日に料金が改正された記述がある。人員は無料、貨物自動車(トラック)50円、乗用車40円、小型自動車30円、荷車其の他諸車20円、自転車5円とある。

やがて橋ができたことや、エレベーター待ちの渋滞が問題となって、車道の通行は昭和52年に廃止。エレベーターと車道は閉鎖された。

■開通は昭和19年・総工費260万円

河を渡りたいなら橋をかけるだろうと、誰もが思う。なぜここにトンネルを掘らねばならなかったのか? ちゃんとした理由があった。

「安治川河底隧道概要」の冒頭に、このような記述がある。

〔安治川は大船巨舶の往来頗(すこぶ)る繁劇で本市の舟運上極めて重要のみならず大阪港の一部であるから支障碍となる様な施設を許さない所謂無橋区域として取り扱われて居るので(中略)此の不便・不安全を除く方策に就いては夙(つと)に考慮せられる所であった(後略)〕

安治川の交通状況について昭和10年5月15日に行われた調査によると、1日で船舶2370隻、渡船の利用は人が12470人、自転車が2760台とある。大型船舶が往来するため橋をかけづらく、当時の渡船は安全上の不安もあったようだ。

そこで河底にトンネルを掘ることが決定され、大阪市第二次都市計画事業の一環として昭和10年12月8日に起工、戦時中の19年9月15日に完成した。総工費は260万円で、現在の貨幣価値に換算して約70億円という大工事だった。

工法は「沈埋工法」といって、河底に溝を掘っておき、あらかじめドックでつくられたトンネル躯体を船で曳航してきて沈める。これを繰り返し、水圧を利用して接続する方法だ。当時は諸外国でも例が少なく、日本の土木技術の粋を集めた建設事業となった。

■今も市民生活に欠かせない生活道路

安治川隧道のエレベーターは、午前零時から6時の間は運転を休止する。この時間にトンネルを通ろうと思ったら階段を使うしかないが、自転車は迂回せざるを得ない。エレベーターの横には直近の橋までの迂回路が掲示されているほか、迂回路を記した地図のコピーが無料で配布されている。

それによると西周りの「国道43号線ルート」(約2キロメートル)、東周りの「中央卸売市場ルート」(約3.6キロメートル)の2本が示されているが、いずれもけっこうな大迂回を強いられる。

安治川隧道の1日あたりの利用者数は、昭和36年の8500人、自動車1200台がピークだったといわれている。だが今も1日6000人が利用する、市民生活に欠かせない重要な生活道路として機能している。

(まいどなニュース特約・平藤 清刀)

2021/9/4
 

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