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豊田真由子
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豊田真由子

全国で緊急事態宣言が解除されました。

今回、第5波の動きについて、「急減した理由が分からない」、「人流抑制は関係なかったじゃないか」といったことが言われます。新型コロナの今後の見通し、個人や社会の取るべき対策、今後のまた新たな感染症との戦いを考える上でも、大切なことだと思いますので、考えてみたいと思います。

■感染の波は、繰り返し来る。そして、そのうち収束する

昨年の4月に、ある民放の番組に生出演した際、「東京の新規感染者100人超え」という速報が入って来て、スタジオがザワザワしたとき、私は「これくらいで驚かないでください。これからもっと増えます。そして、感染の波は、大きいのも小さいのも、これから何度も繰り返し来ます。そういうものです。だけど、だいじょうぶ。」と申し上げ、連載などでもずっとそう申し上げてきました。

その通りになっているわけですが、これは別に予言でもなんでもなく、新興感染症のパンデミックというのは、そういうものだということを、知識及び経験として知っていた、ということです。

2009年の新型インフルエンザパンデミック発生時に、ジュネーブWHOで緊迫した日々を過ごした経験からも、新型コロナウイルスの場合は、発生地とされる中国武漢での深刻な肺炎患者の状況や、増大した中国と世界各国の人の往来等にかんがみれば、これは、局地的では到底収まらないであろうし、そうなれば収束までに少なくとも数年はかかるだろうということが、昨年2月の時点で推測がつきました。

もちろん、新型のウイルスが、どれくらいの地域に広がって、どれくらいの被害が出るか、収束までにどれくらいの期間がかかるか、といったことは、ウイルスの毒性や感染力、医療や衛生の状況、ワクチン・治療薬の開発状況等によって変わってきますし、時代によっても大きく違います。

■今回の第5波急減の要因は?

では、今回の第5波の急減の要因は何でしょうか?

私の答えは、(誤解をおそれずに言えば)、「感染症の流行って、そういうもの」です。

減少の理由として、人流抑制、行動変容、ワクチン接種の進展、ウイルスがコピーミスによって自壊してきている(エラー・カタストロフ説)など、いろいろなことが言われます。

そうしたことも考えられますが、こうしたことのどれが、どのくらい減少に寄与しているのか、あるいは、そうではないのか、というのは、実はとても難しいことで、本来は、大規模な比較研究等で、精緻な分析を行わないことには、なかなか確定的なことはいえません。

そして、今回は「人流はそれほど減っていなかったのでは?」「同じ緊急事態宣言中で制限の内容は変わらないのに、感染者が大幅に増えたり減ったりしているのだから、実は宣言の効果ってあまり無いのでは?」とお思いの方もいらっしゃるのではないかと思います。

世界の最新の感染状況を見てみると、例えば、フランスやスペインなど、行動制限を大幅に緩和している国でも、あるいは、インドネシアやインドのように、ワクチン接種率が低い国でも、波が下がってきていることが分かります。(後述しますが、行動制限やワクチンに意味が無い、と言っているわけではありません。)

 (なお、米国やイギリスは、現時点ではやや下げ止まっています。ワクチンの効果については、米国は共和党の支持基盤である南部の州などを中心にワクチンを忌避する方が多く、接種が進んでいない、イギリスはアストラゼネカ製ワクチン(mRNAワクチンではなく、有効性が若干下がると言われている)が中心だからではないか、といったようなことも言われますが、それでも、ある程度のタイムスパンで見れば、下がってくると思います。)

■ピークを越えたら、波は下がる 歴史に学ぶ。世界の他の地域を見る

いずれにしても基本的に、新興感染症の波というのは、感染のピークを越えたら、必ず下がります。それは、一つの波で見ても、パンデミック全体で見ても、です。過去の様々な感染症の歴史からも、そうしたことが推察できます。

たとえば、非常に単純化して申し上げれば、約1億人が亡くなったと言われる中世のペストや、約5000万人の方が亡くなったと言われる約100年前のスペイン風邪(新型インフルエンザ)も、ワクチンも治療薬も無い時代ですが、甚大な被害を出した後ではありますが、収まっています。

もちろんこれは、感染症対策としての行動制限やワクチンに意味が無いということでは全くなく、一般的には、被害(感染者や死者数)を抑えたり、感染拡大のスピードを遅らせたり、収束を早めたり、そういった効果は十分あるわけです。

また、2020年3月からの日本の感染の波の形を見ていただくと、おおむね、なだらかに増えたらなだらかに減る、急激に増えたら急激に減る、という傾向があることも分かります。

そして、また、地域は違っても、欧米やイスラエル、日本などは、感染の波の現れ方(2020年夏、20・21年冬、21年夏)が、不思議と似通っています。

■取るべき感染症対策は、状況やタイミングによって変わってくる

こうした諸々のことを考えれば、今回の第5波の急減は、要因がこれだ!と特定はできなくとも、それ自体は、特段驚くことではない、ということがお分かりいただけるのではないでしょうか。

そして、おそらく次の波もまた来るでしょう。それを繰り返して、収束に向かうのです。

そういう意味では、新型コロナについて、分からないことも、今後について予想できないこともたくさんあるわけですが、広く捉えれば、分かっていることもたくさんある、といえます。

いずれにしても、人間がすべてをコントロール・説明できると思わない「謙虚さ」と、こういうものだから仕方ないという「諦観」と、それでもきっと大丈夫という「希望」、こういったことが、新興感染症に対峙する上では、肝要なのではないでしょうか。

そうすることで、心構えや気持ちの在り方も変わってくるのではないかと思います。

■「感染拡大防止対策」と「社会経済活動の維持」は、車の『両輪』、数字に表れない被害にも注目すべき

今回ようやく解除かと思いきや、「緊急事態宣言解除後のリバウンドを懸念」と言われても、「じゃあ、また同じような制限を繰り返すの!?」という大きな不信と疑問が、国民の間にはあると思います。

新興感染症に対して取るべき対策というのは、状況やタイミングによって変わってきます。ずっと同じことをやり続けていればよい、というものではありません。

例えば、初期にはロックダウンによって感染の封じ込めが可能であっても、あまりに拡大してしまうと難しいとか、医療体制がきちんと対応できるのであれば、ある程度の感染者増は想定しながら社会経済を再開する道もあり得る、といったことです。

欧米各国が、現在どのように対処し、社会経済や国民生活、感染状況がどうなっているか、といったことにも着目しながら、我が国も、新たな段階の対応をしていくことが必要だと思います。

それを踏まえて、現時点における日本の現実的な目標と対策としては、一人ひとりが、一定の感染防止策を取りながら、社会経済活動をきちんと再開する。そして、今のうちに、医療体制を着実に整備する。ワクチン接種と治療薬普及を進めるといったことになるのではないでしょうか。

以前から申し上げていますが、「感染拡大防止対策」と「社会経済活動の維持」は、ブレーキとアクセルではなく、車の「両輪」です。両方を、バランス良く、ともに回していかなければ、国民生活や社会という「車」は、ちゃんと走ることができません。

必要な治療が受けられずに亡くなる、経済的に苦境に陥る、仕事を失う・廃業する、教育の機会や学校生活の質が損なわれる、自殺が増えている、DVや虐待が増えている--数字として表れにくいものも含め、深刻で甚大な被害が蓄積しています。

新型コロナによる死者や重症者をできる限り減らすとともに、これまでの様々な制限によって国民にかかっている多大な負荷と深刻な影響を、直視し、救済しなければならないと思います。

■「身体の免疫」と「心の免疫」を付けましょう

9月29日に自民党新総裁に選出された岸田さんは、聡明で温厚誠実な方です。「聞く力」を発揮し、丁寧に、理解・判断し、堅実で安定した政権運営を担われるだろうと思います。

新たな体制で、政府には、多岐にわたる国民の苦境とニーズにしっかりと目配りをした実効的な対策を、そして、国民の皆様には、できる限り、ワクチン接種による「身体の免疫」を付けるとともに、新興感染症について理解を深め、俯瞰して物事を見る、世界全体の中で、過去と未来の流れの中で現在を捉える、といったことにより、「心の免疫」を強化していただくことが、新型コロナを乗り切るためにも、大切なのではないかと思います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

2021/10/1
 

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