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しろ(オス、推定3歳)。「ご飯の時間は一番の楽しみだにゃ」
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しろ(オス、推定3歳)。「ご飯の時間は一番の楽しみだにゃ」

 佐賀県神埼市在住で元看護師の末永由貴子さん(50)が開発、販売している有田焼の高級ペット用食器が、愛猫家などの注目を集めている。磁器で高さが8~10センチあり、購入者からは「猫が食事しているときの姿勢が良くなった」「吐き戻しをしなくなった」などの声が寄せられている。この商品を開発、販売するために看護師の仕事を辞め、一念発起して起業した末永さん。人生を変えるきっかけとなったのは、ある日突然現れた「美しくも図々しい(笑)」(末永さん)白猫だった。

 2018年12月のある夜のこと。佐賀県神埼市内にある末永さんの自宅玄関に、突然一匹の白猫が現れた。「用事があって玄関の扉を開けたら、ニャニャッと鳴きながら家の中に入ってきたんですよ。これまで見かけたことがない、がっしりとした体格の白猫でした。私の脚にまとわりついて『入れてください』と。いやいや、猫なんて飼ったことないし飼えないよと言ってるのに、『まあいいじゃないか、ちょっとくらい』とでもいうかのように、家の中に上がり込んできたんですよ(笑)。綺麗な白猫だったので、きっと飼い主がいるに違いないと思い、翌日、警察に届け出をして、飼い主さんが見つかるまでうちで預かることになったんです」

 とりあえず「しろ」と名付け、動物病院へ連れていくと、成猫だと思っていたのにまだ推定生後8ヶ月くらいだということがわかり、獣医師も末永さんもびっくり。後に近所の人たちに聞いてわかったそうだが、実はあちこちの家でエサをもらっていたという。「それでこんなに体格がいいのかと。でも、飼い始めてからが大変でした。家の中にあるゴミ箱をひっくりかえしたりゴミ袋を漁ったりして食べ物を探すんですよ。堂々と『この家は全部、俺のテリトリーだ』みたいな顔をして(笑)」

 3ヶ月が経っても飼い主は現れず、末永さんはしろの正式な飼い主に。その頃になると、しろはすっかり家猫として落ち着き、ガツガツした様子もなくなっていた。ただ、一度リビングの網戸に体当たりして網戸が外れ、脱走したことがあった。家族総出で探したが見つからず、途方にくれていたところ、6時間ほどして「これ、獲ってきてやったぜ」とトカゲをくわえて自慢げに戻ってきたそうだ。

 そんなしろだったが、末永さんはしろのことがやんちゃ息子のようで愛おしくて仕方なかった。しろと出会った当初から、ずっと感じていたことがある。それは「満足のいく猫用食器が見つからない」ということだった。「私たち人間がお気に入りの茶碗で食事するように、しろにも素敵な食器で食事をしてほしいと思い、ネットなどをいろいろ探したのですが、気に入った食器がどうしても見つからなくて…。ならば、自分で作るしかないと(笑)」

 佐賀県は焼き物で有名だ。末永さんは「地元の有田焼で、世界一美しいペット食器を作りたい」と考えた。大事にした点は、猫が食べやすいこと、安全な素材であること、手入れしやすく長持ちすること。猫がエサを食べるとき、首に負担をかけず、最も食べやすいのは、床から8~10センチほどの高さの食器といわれており、そのような形の食器はすでにたくさん売られているが、末永さんは、素材とオリジナルの形にこだわった。400年の歴史を持つ有田焼の白磁は手触りがよく、耐久性や洗ったときの汚れ落ちもいい。形については土台部が聖杯のような形と、丸みを帯びた形の2種類を考案した。「しろがご飯を食べるとき、試作品の食器を使ってみたらとても食べやすそうにしていて、これなら他の猫ちゃんにもきっと喜んでもらえそうと自信が持てました」

 2019年6月、20歳から28年間務めてきた看護師の仕事を辞め、起業を決意。「ここ数年は福祉施設の施設長を務めさせて頂いていたんですが、その仕事は私じゃなくてもできる人は他にいるだろうと。でも、世界一美しくてクオリティの高いペット食器を作ろうなんていう人はおそらく私しかいないだろうって。そう思ってしまったんですよ(笑)。もしこれをやらなかったら、死ぬとききっと後悔するだろうなって」。2020年2月、末永さんは「LaKaren(ラカレン)」を設立。49歳で起業した。

 しかし、商品完成までの道のりは平坦ではなかった。最も苦労したのは、こだわって考案した土台部だ。当初頼んだ窯元では、土台の曲線を出すのが難しく、量産ができなかった。「そこでいろいろ調べ、伝統的な有田焼メーカーのひとつ、アリタポーセリンラボさんへ飛び込みでお願いに行ったんです。すると、私の話を真剣に聞いてくれて、『よそが作れないというなら、うちが挑戦してみよう』と引き受けてくださったんです」。職人たちは試行錯誤を重ねた。表面は釉薬を刷毛(はけ)で薄く巻く高度な「刷毛巻き」を施し、独特な質感をもたせた。そしてついに末永さんが思い描いたとおりの形の食器が完成。量産できる体制も整った。

 今年5月から9月末までに2度、クラウドファンディングサイトで購入者を募ったところ好評だった。また、8月には東京のルミネ新宿でポップアップショップを展開。愛猫家だけでなく小型犬の飼い主からも「こういう食器を探していた」との声が相次いだという。「食べているときの姿勢がよくなった」「吐き戻しをしなくなった」といったものから、「水をよく飲むようになった」「カリカリを入れたとき、磁器特有のカリンカリンという音色がたまらない」など、購入者からは様々な感想や喜びの声が寄せられた。

 今後は「取っ手がついていて高齢者でも持ちやすい、ユニバーサルデザインの商品も作りたい」「佐賀県の販路開拓助成金などを活用して海外展開し、有田焼の魅力を世界に発信していきたい」と夢は膨らむ。

 「しろは食いしんぼうなので、何よりも食事が楽しみ。ご飯の時間って、どんな子も一番楽しみにしていますもんね」と末永さん。苦労して作り上げた自らの食器で美味しそうに食事するしろを眺めるときが「至福の時間」とほほえむ。「もし、しろが家に現れていなければ、看護師を辞めたり、物を作ってお客さんに届ける仕事をしようだなんて夢にも思わなかったと思います。しろは私の人生を180度変え、願ったことは諦めなければ叶うんだということを教えてくれました」と話した。商品の詳細についてはLaKarenのホームページ参照。

(まいどなニュース特約・西松 宏)

2021/10/6
 

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