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ムーン(左)とマリイ(右)。いまは幸せに暮らす
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ムーン(左)とマリイ(右)。いまは幸せに暮らす

 佐賀県佐賀市にある路地裏の小さな雑貨店「cotoiro(コトイロ)」。猫モチーフの雑貨、セレクト文具、アクセサリーなどが所狭しと並ぶ店内では、代表の江頭貴子さん(42)の飼い猫、ハチワレ柄の「ムーン」(オス、3歳)と、マンチカンの「マリィ」(メス、6歳)が出迎えてくれる。

足音を聞きつけて挨拶にきたり、「私、かわいいでしょ」と自慢げにアピールしたりして、店にやってきたお客さんを笑顔にしている。今は江頭さんのもとで幸せに暮らす2匹だが、実はどちらも不運な境遇にあった猫たちだった。どんな経緯があったのか。江頭さんに話を聞いた。

 ムーンと出会ったのは保護猫団体のSNSがきっかけでした。熊本市内の月出という場所で車にひかれたと思われ、骨盤や左脚、尻尾などを骨折し、下半身は麻痺して歩けないほどの大けがを負ったのですが、ボランティアさんが懸命な治療を施してくれたおかげで、再び歩けるまでに回復。そんな大変なことがあったにもかかわらず、SNSの飼い主募集の写真を見たら穏やかそうで、あっ、この子だと。ズキュンときました(笑)。当時、熊本で会社員をしてた私は、辞めて実家のある佐賀市内へ戻り、雑貨店を開きたいとの夢を実現させようとしていたころでした。この子と一緒に店をやりたい、と思ったんです。

 譲渡会で初めて会ったとき、ムーンはまだ生後8カ月。抱っこすると嫌がったり、威嚇したりするのではなく、モジモジしながら近くにいた預かりママさんの腕に乗り移っていきました。もう一度抱っこさせてもらったら、またモジモジして、その姿がとても愛おしく、もう手放すことができなくなってしまって…。もしかしたら事故の後遺症が残るかもしれないとも言われましたが、それならそれでしっかりと面倒をみようと。それくらいムーンに一目惚れだったんです。

 2020年5月に念願の雑貨店開業を果たし、約2カ月が経ったある日のこと。「ペットショップに可愛い子がおったよ。あんたと誕生日が一緒やったよ」との家族の言葉を聞き、自分と誕生日が同じ子って珍しいなあ、一体どんな子なんだろうと気になって、翌日ショップへ見に行ったんですよ。そこには里親募集をしているマンチカンの女の子がいました。それがマリィです。

 年齢はもうすぐ5歳。最初はガラスケージの中にうずくまっていて、顔もよく見えませんでした。時折あげる顔を覗き込むと、つまらない、楽しくない、という感じがものすごく伝わってきました。朝夕2回あげているというご飯もほとんど食べ残していました。ご飯なんか食べてやるもんか、ここで死んでやる、といわんばかりの、いじけた感じだったんです。

 何度か様子を見に通ううち、この子はあごがしゃくれていて歯の噛み合わせが悪く、猫風邪をこじらせ慢性的に鼻水が出る持病もあるということがわかり、売れ残りと推測されました。店員さんに、これまでどこにいたのか、どんな世話や治療をしてきたのかを尋ねると、「どういう経緯でここに来たかはわからない」、「ここでご縁がなければまた別の店舗に行く」といった返事。これまでどう過ごしてきたのかなど詳しいことはわかりませんでした。

 気づけば私は3日連続でその子に会いに通っていました。マンチカンの平均寿命はおよそ11歳といわれています。この子は猫生の半分近くを、ずっと狭いケージの中で過ごしてきたのだろうか。走り回ったりジャンプしたり遊んだりしたことはあるのかな…。いつもじっと丸まって、生気がない姿をずっと見ていたら、この子をここから出して自由にしてあげたい、走り回らせてあげたい、思いっきり一緒に遊んであげたい、との思いがこみあげてきました。ただただ不憫で、そこから出してあげたかった…。店の人にお願いして抱っこさせてもらうと、長い毛がふわふわで、なんでこんなかわいい子が…と不思議なくらいでした。

 家族と相談し、私はその子を引き取ることに決めました。ショップで手続きを済ませて我が家に連れて帰り、一時隔離用の小さなケージの中に入れていたら、マリィは外に出してほしいとも言わず、その狭いケージの中でずっと平気で過ごしているんですよ。なので、少しずつケージの外へ出し、ムーンとも触れあわせました。

 1週間ほどして、マリィは状況が自分でもようやく飲み込めたのでしょう。もう閉じ込められていないんだ、私は自由なんだって。ショップでは、先端に触れると水が出るケージ用の給水ボトルを使っていたので、家にきた当初はお皿から水を飲むときに距離感がつかめずジャボッと顔をつけてしまったり、初めてだったのか、ずーっと爪研ぎをしていたり…。元々、マンチカンは遊び好きな猫種。5歳の成猫なのに、猫じゃらしで遊んであげるとずっと遊び続け、まるで子猫のように何にでも興味を示しました。

 ムーンともすぐに仲良くなり、食いしん坊のムーンに触発されて別の猫かと思うほど食欲も旺盛に。ペットショップにいたときは、ぬいぐるみみたいで、目が死んでいたのに、今は生き生きとしていて毎日が楽しくて仕方ない様子で、顔立ちも表情も変わりました。失った青春を必死で取り戻しているかのようです。

 私にとって2匹はまるで自分の子どものような存在です。コロナ禍のなか開店してもうすぐ1年半。しっかりと経営を軌道に乗せながら、これからも2匹が幸せな猫生をおくれるよう支えていきたいです。辛い思いをしてきたムーンとマリィに、「ありがとう、もしもう一度猫に生まれたとしても、またここに戻って来たいよ」と言ってもらえるような飼い主になれたらと今は思っています。

(まいどなニュース特約・西松 宏)

2021/11/27
 

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