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コロナ禍で創作の原点に立ち返ったという堤幸彦監督
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コロナ禍で創作の原点に立ち返ったという堤幸彦監督

数々の革新的ドラマや映画を手掛けてきた堤幸彦監督は、現在コロナ禍で「大変厳しい」状況に陥っているという。ここ1、2年の間に予定していた大きな仕事は軒並み中止か延期。「現場で仕事がないのもキツいんだけど、今はとにかく企画が通らない。コロナ禍の収束後を見越して準備しておきたいのに、自分のように“飛び道具”が多い作風の監督だと、全く通りません」。そして、こう続けた。「僕はオワコンですから」-。

■コロナ禍に生まれた監督50作目

2022年1月7日に公開される堤監督の最新作は、コロナ禍で表現の場を失った3人の俳優(広山詞葉さん、福宮あやのさん、河野知美さん)が企画・出演した自主映画「truth~姦しき弔いの果て~」。突然亡くなった男の部屋で鉢合わせした3人の女性が、自らを「最も愛された恋人」だと主張して壮絶なマウント合戦を繰り広げるシチュエーション・コメディだ。堤監督にとっては記念すべき50本目の映画。すでにイタリアやドイツ、イギリスなど海外の6つの映画祭で賞を受けている。

企画段階では堤監督が撮る予定ではなかったが、アイデアを気に入った堤監督が自ら引き受けることに。キャリア初のインディーズ映画のため、制作体制はこれまで経験したことがないほどの少人数、短期間、そして低予算。しかし堤監督は大きな予算が動く映画では味わえなかった新鮮な手応えを感じたという。

「メジャーな映画では、撮影となると普通はどんどん人数が増えていきます。基本は映像、音、照明のスタッフで、さらに美術や演出、制作、記録、編集などなど…。でも今回はその何分の1という体制でできた。何十年もの間、『どれひとつ欠けても成立しない』という思い込みにずっと支配されていたことに、ようやく気がつきました。遅いですよね(笑)。映画とはそういうものだと疑いもしなかった自分が、本当に恥ずかしい」

「映画は50本目ですけど、はっきり言って僕は素人です。演出を学んだこともなければ、学生時代に映画を撮ったり、演劇をやったりした経験もありません。貧乏ADからスタートして、幸運にも仕事に恵まれてここまで来られましたが、他の優れた日本映画なんかを見るたびに、『自分のやり方にはどこか大きな間違いがあるのでは』と心のどこかでずっと感じていました」

■ネットやラジオでの酷評に自信喪失

堤監督は自身について語るとき、「メジャーのど真ん中にいる人間ではない」「作品を作りすぎて話題性がない」「たくさんのカットを撮ってきたのは確信のなさの表れ」など、意外なほど辛辣な言葉を使う。多くのヒット作を放ちながら、なぜそこまで自己批判的なのか。

「ネットの評判や点数なんかを見てしまうと、どうしてもね…。そんなことをいちいち気にするなんて、情けないでしょう? でも、僕としては観客の気持ちに応える作品を素直に作っていたつもりが、多くの人にとっては全然そうではなかったんですね。ラジオ番組の映画評なんかでも、ずっとボコボコにされてきましたから」

「特に酷評されたのは、『BECK』(※注)かな。僕はロックバンドの経験もあるので、自分をロック側の人間だと思っていたのに、『ロックじゃない』と評されたのがものすごくショックで。内心『そんなことないわ』と思ってはいたけど、『ロックの描き方が記号的で魂がない』とか『この映画のどこに14、15歳でギターを始めた頃のお前の気持ちがあるんだ』と言われたら…すみません。実際その通りだったかもしれない。自分をオワコンだと感じるようになったのは、その辺りからです」

(※注)漫画家ハロルド作石さんの人気コミックが原作。出演は水嶋ヒロさん、佐藤健さんら。興収17.6億円のヒットを記録したが、歌声の演出やロックフェスの描き方などに対しては、かなり厳しい評価もあった。2010年公開。

■初めての自主映画が「僕を自由にしてくれた」

そしてコロナ禍で仕事がなくなったタイミングで、思いがけず監督を引き受けることになった今回の「truth」。ポスターやパンフレット作りなども全て3人の俳優が中心となって展開しており、堤監督も宣伝のため精力的に各地を回っている。

「学園祭かよっていうノリ(笑)。小さい映画なので、今のところは土曜の昼のテレビ番組で特集してもらったり、有名な人にコメントをもらったりということはないですが、作り手の本気の熱があるから伝わるし、面白い。身を粉にして奮闘する3人を見ていると、監督の僕も頑張ろうという気持ちになります」

「さっきはネットの評判なんかを見て落ち込んだ話をしましたが、『truth』に関しては2点でも20点でも、何を言われても構いません。そのくらいストレートに、今までとは違う自信がある作品です。ようやく映画の神髄に通じる入り口に立つことができたような感覚すら覚えています。テレビ局や配給会社、配信のプラットフォームに頼らず作った初めての自主映画が、いろんな頸木(くびき)から僕を自由にしてくれました」

とはいえ、コロナ禍で一度ストップした映画業界が、依然厳しい状況にあることに変わりはない。「truth」で解放された堤監督は今、何を思うのか。

「『ケイゾク』や『SPEC』『TRICK』『20世紀少年』などを撮り、僕なんかが恥ずかしげもなく『映画監督でございます』と言えていたような状況は、もう戻ってこないかもしれません。かなり腹を括って、次のことを目指すべきだと思います」

「そういう意味では、『truth』は僕の従来のやり方では全く思いつかなかった作品。それが、規模は小さいながら海外の映画祭でこれだけ評価された。シェイクスピアとモンティ・パイソンの国イギリスで、ベスト・コメディ賞をもらったのには自分でもビックリしましたよ。期せずして新しい形の映画に参加できたことを、幸せに思います。ここからは反転攻勢のターン。密かに温めている企画もあるので、楽しみにしていてください」

(まいどなニュース・黒川 裕生)

2021/12/24
 

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