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「僕はオワコン」と語る堤幸彦監督
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「僕はオワコン」と語る堤幸彦監督

僕なんかが「ケイゾク」や「SPEC」「20世紀少年」などを撮って、「映画監督でございます」と恥ずかしげもなく言えていた時代にはもう戻らない-。堤幸彦監督は、コロナ禍で苦境に立たされた映画業界の見通しについてそう語る。1月7日から全国で順次公開される最新作「truth~姦しき弔いの果て~」は、監督作50本目にして初の自主映画。自身のキャリアを見つめ直し、ある種“戦略的”に作り上げたという本作について、堤監督に話を聞いた。

■「もう僕に出番は回ってこない」

コロナ禍以降もいくつかの大ヒット映画は生まれているものの、「映画館に以前ほどは人が戻っていない」と堤監督は言う。

「コロナ禍が収束したとして、10年くらい前の映画状況にはもう二度と届かないのではないかと思います。だから今は、新しい形の表現を模索すべきタイミング。じゃないと、僕の存在価値はありません」

「こと映画作りに関しては、大胆に発想を変えないと僕が生き残るのは難しい。何か原作を見つける→製作委員会を立ち上げる→お金が集まるメドが立つ、と。さあ、では1カ月で撮りましょう、キャストは誰にするか、ジャニーズに頼むのか…という流れがメジャーなエンタメ作品の定石ですが、今後はもう僕ぐらいの年齢(66歳)で話題性の少ない、オワコンの監督には出番が回ってこないでしょうから」

■メジャー大作をヒットさせる重圧

「truth」はコロナ禍で表現の場を失った3人の俳優(広山詞葉さん、福宮あやのさん、河野知美さん)が企画・出演した自主映画。突然亡くなった男の部屋で鉢合わせした3人の女性が、自分こそが「最も愛された恋人」だと主張してマウント合戦を繰り広げるシチュエーション・コメディだ。

「主演の3人に最初にお会いして話をするうちに、この人たちだったら大丈夫だと確信しました。クランクイン前から勝算があった映画は、これが初めてかもしれません」

本作は「文化芸術活動の継続支援事業」の助成金を活用し、予算約700万円、撮影2日という制約の中で作られた。「もともとテレビマンなので、テレビ的な締切があった方が燃えるんですよ。『できない』と言うのが嫌いで」と堤監督。撮影は決め打ちのカットばかりで、印象的なラストも「あのアングルでしか撮らない」と決めて臨んだという。

「これが仮に製作費2億円の映画だとすると、最低限2億円は回収する必要がありますし、もっと言っちゃえば製作委員会などの利益をできるだけ上積みしないといけない。6億とか7億、できれば10億くらい稼ぎたいわけです。そういうものを背負っていると、やっぱりビビるわけ。もっと違うアングルも撮った方がいいのでは…と不安にもなるし、意識がブレる。正直、カットが多ければ多いほど後で処理もしやすい。僕はこれまで、そういう呪縛に囚われ続けていました。それは、自分の映画作りに確信がないことの裏返しだったと、今は思います」

■キャリア初の自主映画に揺るぎない自信

主にテレビのバラエティ番組やミュージック・ビデオを手掛けてきた堤監督の商業映画デビュー作は、故・森田芳光監督が総指揮と脚本を務めたオムニバス作品「バカヤロー!私、怒ってます」の第4話「英語がなんだ」(1988年)。以降、数々の話題作を発表し、映画監督として独自の地歩を築いた。時には激しい毀誉褒貶に晒されることもあった34年のキャリア。この「truth」が、実に50本目となる。

「50本も撮ってきましたが、監督としては本当にまだまだ素人です。もし森田監督が生きていらっしゃったら、『早くデビューしろよ』と言われるでしょうね(笑)」

「この『truth』では、これまで仕事をしてきた商業映画では味わえなかった自由な作り方ができました。自分で映像を作り始めた頃の、何もない、アイデアで勝負していた創作の原点に立ち戻れたという手応えを感じています」

「僕はどの映画も『最高傑作だ』と思って送り出してきましたが、頭のどこかは常に冷静でした。でも『truth』に関しては、そういうことが一切ないんです。ストレートに自信作だと言えますし、誰にどう評価されても構いません」

■一番取り組みたい題材は「よど号ハイジャック事件」

予定していた仕事がコロナ禍でなくなり、半ば運命的に「truth」の監督を引き受けたことで、堤監督の映画作りに対する考え方は、完全にリセットされたという。

「実は以前から社会派寄りの作品、例えば小さな離島が日本政府のおざなりな災害対応に怒って独立を宣言する『さよならニッポン!』(1995年)や、路上生活を続ける男の生活をモノクロで描いた『MY HOUSE』(2012年)などを、ポツポツと発表してきました。オファーをいただくメジャーな商業映画の合間に、恐る恐る『どなたか口を利いてくれませんかねえ…』という“自分営業”みたいなことをしながら。でも、これからはもうエンタメ化を目指して堂々とやるべきだと思うようになりました」

「今、一番やりたい題材は1970年の『よど号ハイジャック事件』。これはもう本当にいろんな要素があって面白いんです。ハイジャックの部分だけじゃなく、翻弄される日本政府の情けなさや、裏にあるアジアの政治体制、アメリカの動向などもテーマになってくる。やっと、そういうことを自由に、そして胸を張って言えるようになってきました。もちろん日本のテレビ局や映画会社は腰が引けると思うけど、今はいろんな意味で黒船の時代なので。理解ある若いプロデューサーと組めないか、模索しているところです」

(まいどなニュース・黒川 裕生)

2022/1/2
 

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