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漱石(左)と、まつり(右)
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漱石(左)と、まつり(右)

 「安芸の小京都」と呼ばれる広島県竹原市。「たけはら町並み保存地区」(重要伝統的建造物群保存地区)は江戸時代後期、製塩や酒造業などで栄え、歴史的な情緒を感じさせてくれる観光スポットだ。その中の1軒、陶芸家の岩川智子(のりこ)さん(56)が築100年以上の古民家(1階が工房、2階は自宅)で営む「陶工房 風土」では、岩川さんの飼い猫で、広島県から竹原の「観光課長猫」に任命された「漱石(そうせき)」(オス、8歳)がお客さんを出迎えている。漱石と仲良しだった先代犬の「赤丸」(オス、15歳で没)が天国へ旅立って半年が経ち、この5月、動物愛護センターから引き取った幼い保護犬の「まつり」(メス、3ヶ月)が新たな家族に加わった。今はまだ微妙な距離感の2匹だが、岩川さんは、仲良く一緒にお客さんをもてなしてくれることを願っている。岩川さんに話を聞いた。

■「兄弟のような犬猫コンビでした」

 元々、うちにはキジトラの「みくる」(メス、7歳で没)と、ミックス犬の「赤丸」がいました。みくるは捨てられていたのを娘が拾ってきた子。その後、知人から「子犬が生まれたから」と譲ってもらったのが赤丸でした。赤丸を散歩に連れていくと、みくるはリードなしで後をついてきたり、夜は赤丸と一緒に寝たりと、まるで姉弟みたいな仲良しコンビだったんですよ。

 2013年、そのみくるが腎臓病で虹の橋を渡り、1年が経ったころ、いつも見ていたSNSの里親募集サイトに、みくるに似たキジトラが出ていたので電話してみると、そのキジトラはすでに貰い手が決まってしまったとのことだったのですが、残っていた兄弟のハチワレの子がすごく可愛くて。生後1ヶ月少しくらい。くりくりっとした大きな目で、ミャーと鳴きながら見つめるんです。その姿に縁を感じて引き取ることに。それが漱石です。

 漱石がやってきたとき、赤丸は8歳でした。赤丸にとっては「みくる姉ちゃんみたいな猫がやって来た」と思ったかもしれません。まだ幼い漱石を赤丸は親しげに受け入れ、2匹はすぐ仲良くなり、今度は兄弟のような犬猫コンビに(笑)。

 ここは竹原の町並み保存地区になっていて、観光客の方々がたくさん来られます。そのうち、工房2階にある肘掛け窓の高欄で、漱石と赤丸が一緒にひなたぼっこしたり、道ゆく人たちを眺めたりする姿が「可愛い!」と話題になりました。2016年9月には、広島県が当時キャンペーンをしていた「広島キャットストリートビュー」の竹原支局路地裏観光課長に漱石が任命され、数多くのメディアに紹介されて、一躍「時の猫」になったこともありました。

 昨年(2021年)11月、赤丸は肝不全のため天国へ。みくるの元へと旅立ちました。コロナ禍のため人通りは少なく、家の中も漱石だけになって、寂しくなりました。あるとき万歩計を見たら、赤丸がいたときより全然歩いてない自分を発見しました。犬がいなくなると、生活リズムががらっと変わってしまうんですよね。毎日朝晩必ず散歩に出かけていたことが、健康や作陶にもいい影響を及ぼしていたことに改めて気づきました。

 もしも新たにまた飼うなら猫にしようかとも思いました。だけど、私、犬の匂いが大好きだし、やはりワンちゃんがいいなって。犬に猫の代わりはできないし、猫に犬の代わりはできないんですよね。それぞれの魅力を知っているのでよけいにそう思うのかもしれません。それで赤丸がいなくなって半年が経ったころ、動物愛護センターのサイトを見始めました。保護犬の里親募集があれば会いに行ってみようと。

■「漱石はいろんな出会いを運んできてくれる」

 まつりと出会ったのは今年5月。GW前に6匹ほど立て続けに可愛い子犬などが保護され、里親募集があったんです。会いにいくと、とても人なつこい子で、尻尾の先が筆みたいにちょんと白いのも可愛くて、この子だと思い、引き取ることに。推定では3月上旬生まれとのことだったので、ひな祭りにちなんで「まつり」と名付けました。

 まつりはまだ生後3ヶ月。人に会うと嬉しくてわちゃわちゃはしゃいだり、たまにおしっこを漏らしたりするので、今はトイレをはじめ、スワレ、マテ、フセの訓練など、毎日厳しくしつけをしているところです。漱石はそんな姿を、遠くから冷めた目で見ています。まつりは漱石にも「遊んで!遊んで!」と無邪気に近づいていきます。漱石にとってはそれがウザいみたいで、軽くシャーと威嚇したり、猫パンチをしたりしています。

 ふだん、漱石は私が工房でろくろを回そうとすると、一緒についてきて、少し距離をおいた所で様子をうかがい、作業を終えて「漱ちゃん、もう終わるよ」というと、一緒に2階の部屋までついてきます。そばにいるけどちょっかいは出さず、「私を感じながら一緒にいる」という表現がぴったりかもしれません。ベタベタせず程よい距離を保ちながら、私のことをいつも気にかけてくれています。思うような創作ができなくて悩むときもありますが、私も近くで漱石を感じられるだけで元気が出ます。

 でも最近は、私がまつりとずっと過ごしていると、やきもちを焼くんですよ。つい先日のこと。私に何かしてほしいことがあったんでしょう。漱石が「ニャー(構ってほしい)」と鳴いて私を呼んでいるのに、私が相手できなかったときがありました。すると、これまで工房の棚に置いてある器を落としたことなんて一度もなかったのに、お皿を床に落として割ったんですよ。割れた残骸を見たとき、ああ、これは漱石の怒りだなと(笑)。

 これまで「観光課長の漱石に会いたい」「漱石と赤丸の仲睦まじい姿を見たい」と全国各地からたくさんの猫好き、犬好きの方々が工房にやってきてくれました。漱石はいろんな出会いを運んできてくれて、交流の輪が広がり、本当に感謝しています。

 漱石は工房の窓ガラス越しに外を眺めるのが好きで、前を通る人も漱石の姿を見つけると、必ず写真を撮っていかれますね。「観光課長猫」としての役割をしっかり果たしています。漱石とまつりが仲良くなるには、まつりがもう少し成長するのを待たねばならないかもしれませんが、かつての漱石と赤丸のような犬猫コンビで、竹原にやって来られた方々を喜ばせてほしいです。

(まいどなニュース特約・西松 宏)

2022/7/6
 

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