連載・特集 連載・特集 プレミアムボックス

話題

  • 印刷
HC85系気動車は、分割併合を考慮して、先頭車は貫通型になっている
拡大
HC85系気動車は、分割併合を考慮して、先頭車は貫通型になっている

JR東海が、現在使用中のキハ85系気動車の置き換え用として、ハイブリッド方式のHC85系気動車の運転を開始した。まず2022年7月1日から、特急「ひだ」2往復で導入。暫くは、名古屋~高山間で運転するが、2022年度内には特急「南紀」だけでなく、大阪・富山へ乗り入れる「ひだ」にも、HC85系気動車の投入が予定されている。HC85系気動車は、環境負荷を軽減させるため、ミドリムシを原料としたバイオ燃料を使用することが計画されており、2022年1月から試験が行われている。これが実現すれば、日本の交通体系だけでなく、エネルギー政策なども大きく変わる可能性がある。

■HC85系気動車の概要と性能

2017年に、「次期特急用気動車」として、ハイブリッド方式の車両を導入する予定である旨が、JR東海から発表された。2018年には、内外装のデザインと安全設備が、2019年には形式名やロゴなどが発表された。
「HC85系気動車」の「HC」は「Hybrid Car」の略であり、ディーゼルエンジンで発電を行い、そこで得た電気やバッテリーに蓄えた電気で駆動する仕組みである。バッテリーに蓄える電気は、制動を使用した時に得た電気である。

それゆえ従来のキハ85系気動車とは、駆動システムが大きく異なり、電気で駆動するため、形式なども「モハ」、「クモハ」、「クモロ」など電車と同じ扱いになっている。それゆえ電車の運転免許で、HC85系気動車の運転が可能となるため、乗務員の養成コストの削減にも繋がる。

ハイブリッド方式が採用され、1両当たりのエンジン数を、従来のキハ85系気動車では350PSのエンジン2台だったところ、450PSのエンジン1台で対応が可能となり、燃費が35%も向上することが見込まれている。このエンジンのほか、1両当たり145kwのモーターが4台搭載されており、大容量のバッテリーと相まって、最高運転速度は120km/hを維持する。

また燃費と静寂性を向上させるため、客用のドアが開いた状態では、エンジンを停止するアイドリングストップ機構を搭載する。

乗り心地を向上させるため、JR東海の近郊型電車である313系と同様に、揺れを打ち消す働きをする「セミアクティブサスペンション」を採用している。また新幹線の技術を応用し、各機器をリアルタイムで状態監視するシステムも、気動車で初めて導入され、乗り心地だけでなく、保安性なども向上した。

■車内設備など

座席は、車椅子区画を除き、グリーン車も含めて全て2-2の横4列の座席配列であり、全座席にコンセントと背面テーブルを備えた回転リクライニングシートである。

グリーン車の座席は、キロハ84と同様に可能な限り横幅を拡張しており、普通車と比較すれば、1人分の座席幅が約25mm広くなっている。

座席のモケットは、「新緑」「川」「夕焼け」のイメージの「緑」「青」「紫」の3色を、グラデーションで表現した、安らぎと落ち着きのある豪華な感じに仕上がっている。座席には、コンセントと背面テーブル、読書灯、可動式のヘッドレスト、そしてフットレストも備わるが、キロハ84のグリーン車のフットレストから、さらに発展して拡げて使えるだけでなく、上下の移動が可能になっている。シートピッチは1160mmのままであるが、フットレストの使い勝手が良いため、窮屈な感じはしない。また新幹線のグリーン車と同様に、シンクロナイズド・コンフォートシートが採用され、座席をリクライニングさせた際、体がシートに馴染むようになっている。新幹線のグリーン車を含めても、日本一、フットレストが優れたグリーン車であると言える。

床には、新幹線と同水準の厚手の赤色系の絨毯が敷かれており、「ミニチュア新幹線のグリーン車」という感じであるが、キロハ84のグリーン車には、厚手とレースの両方のカーテンが備わるだけでなく、ひじ掛け内蔵のテーブルも備わっていたが、クモロ85では厚手のカーテンだけになり、ひじ掛け内蔵のテーブルは備わっていない。それでも背面テーブルは、サイズが一回り大きくなり、かつ手前に引いて使用が可能なため、使い勝手は良い。

普通車の座席は、シートピッチが1000mmあり、紅葉と花火をイメージした朱色系のモケットとなり、背面テーブル以外にひじ掛けの部分には、コンセントが備わる。

グリーン車・普通車を問わず、通路の扉の上には、停車駅の案内以外に、ハイブリッド気動車らしく、走行装置の使用状況を示す案内表示器が設置されている。またデッキには、沿線の工芸品を展示する「ナノミュージアム」が設けられ、高速バスでは真似が出来ないサービスが展開されている。そして情報化時代に対応するため、フリーWi-Fiのサービスが提供される。

キハ85系気動車がデビューした頃は、バリアフリー法が施行されていなかったため、客室の座席の部分を1段嵩上げして、眺望を向上させることが可能であったが、2000年にバリアフリー法が施行されると、車内は面一にしなければならなくなった。また車椅子の利用者のスペースが3席分設けられ、トイレも車椅子に対応になった。

■乗車した感想と今後の展開

HC85系気動車は、キハ85系気動車のような前面の展望が可能な車両が全くなく、車窓が素晴らしい高山本線を走行するには、少々残念ではある。全車が貫通型になったのは、分割併合や多客期に増結を行うためである。またWi-Fiや防犯カメラなど、搭載する機器類が増えたことも、前面展望を妨げる要因となるが、前面展望が可能な車両とすれば、踏切事故が発生した際、運転士の安全性で問題がある以外に、気温が上がり過ぎて冷房の効きが悪くなったりする。グリーン車を展望車にすれば、普通車の客がグリーン車の通路まで来て、静かな車内で寛ぎたいグリーン車の利用者には、迷惑な結果となる。

クモロ85は、通り抜けのない先頭車で、前面の展望は期待出来ないが、側窓の大きさはキハ85系気動車と同等であり、高山本線の素晴らしい車窓は堪能することが出来る。

HC85系気動車は、ハイブリッド方式であるから、従来のキハ85系気動車よりも、車内の静寂性は大幅に向上しており、電車に乗車している感じがした。

各車のデッキには、高山本線沿線の伝統工芸品が展示された「ナノミュージアム」が設けられたが、これなどは高速バスでは真似が出来ないサービスであるため、完全に差別化が図られている。この考え方は、JR西日本が誇る超豪華クルーズトレインの「トワイライトエクスプレス瑞風」で実施されているが、それをJR東海が取り入れたことになる。

筆者は、高速バスとサービス面で差別化されたことも重要だと考える。だがそれ以上に、日本には素晴らしい伝統工芸品があり、かつ優れた職人がいる点の方を、より重要視している。岐阜のうちわや、美濃の和紙などを製造するノウハウがあるため、そのノウハウを活用して、新製品や新産業へ発展させる必要がある。

さらにHC85系気動車は、バイオ燃料で走行が可能であるということは、中近東や米国から原油を輸入する必要性から、解放されることになる。バイオ燃料の原料となるミドリムシは、日本の河川や池などに生息しているため、産業らしい産業がなくて困っている自治体にとれば、日本国内で使用する燃料を製造することで、過疎化を食い止めるだけでなく、新たな収入源を確保することが可能となる。

バイオ燃料は、鉄道車両だけでなく、バスやトラック、乗用車、そして航空機でも使用が可能である。船舶に関しては、水の抵抗は空気抵抗の10倍もあり、航空機よりも強力な推進力を必要とするため、バイオ燃料では対応が難しい。

日本が、バブル崩壊後30年以上も低迷したのは、政府や各自治体の長の考え方が、公共事業に依存している点も無視出来ない。まずは、地元にある財や資源を活用することで、その地域が発展し、それが日本全体の発展に繋がる。また日本人は、勤勉であるにも関わらず、裕福感が感じられないのは、原油を購入するため、私達が働いて得た資金が流失していることも、大きな要因だと考える。

バイオ燃料で鉄道、バス、トラック、乗用車、航空機で稼働するようになれば、自国で燃料が賄えて、戦争などの有事の際にも困らなくなる利点がある。

それらを加味して考えると、HC85系気動車は、鉄道界だけに限らず、今後の日本の進むべき進路を示していると言える。

◆堀内重人(ほりうち・しげと) 1967年大阪に生まれる。運輸評論家として、テレビ・ラジオへ出演したり、講演活動をする傍ら、著書や論文の執筆、学会報告、有識者委員なども務める。主な著書に『コミュニティーバス・デマンド交通』(鹿島出版会)、『寝台列車再生論』(戎光祥出版)、『地域で守ろう!鉄道・バス』(学芸出版)など。

2022/7/10
 

天気(8月16日)

  • 33℃
  • 29℃
  • 30%

  • 36℃
  • 27℃
  • 40%

  • 35℃
  • 29℃
  • 30%

  • 35℃
  • 28℃
  • 30%

お知らせ