地元の中小企業に勤めているAさんは、会社の経理を社長の奥さんが取り仕切っていることに違和感を覚えていました。奥さんは仕事はきちんとこなしているものの、不在にしていることも多く、急ぎの処理に対応してもらえないこともあります。
先日もAさんが現場のトラブルから過去の経理情報を知りたいと思い、奥さんに相談しようとします。しかし奥さんはその日、1日中不在の予定となっていました。しかもその理由は、友人と遊びに行っているようです。
この状況にAさんは「やっぱり身内びいきでポジションを与えているのでは?」と強く感じたのでした。
果たして社長の奥さんが経理を担当しているのは、身内びいきなのでしょうか。自身も中小企業社長の奥さんとして経理業務をおこなう傍ら、経理代行として複数企業の経理を担当している橋本ひとみさんに聞きました。
■身内びいきとは言い切れない事情が…
ーなぜ社長の奥さんが経理をするケースが多いのでしょうか?
お金の管理は会社にとって最も大事な部分ですから、まずは信頼できる家族に任せたい、そう考える社長が多いのだと思います。
経理は会社設立と同時、場合によってはその前から動き出す仕事です。人を雇う余裕がない段階では、奥さんが「ちょっと手伝う」形で帳簿をつけ始めるケースがあると思います。経理はその時その時の処理だけでなく、最初からの流れを把握しておくことが大切なため、そのまま会社の経理を一番知っている人として継続するのは自然な流れです。
こうした経緯から、社長の奥さんが経理を担う会社は珍しくないのではないでしょうか。
ー身内が経理を担うメリットとデメリットはどう考えますか
メリットとして大きいのは、やはり信頼性とコスト面ではないでしょうか。会社のお金を扱う以上、最も信頼できる人に任せたいと考えるのは自然なことです。家族なら「不正をされるのでは」と心配する必要は少なく、安心して任せられます。
また、人を新しく雇えば給与がかかりますが、家族が担えば人件費の調整がしやすく負担を抑えられます。小さな会社ほどこの点は大きいと思います。
一方でデメリットとしては、経理を任せることで奥さんは会社のお金事情をリアルに知ってしまうことです。「売上が上がっていない」「経費を使いすぎ」など、家庭での口論の火種になりやすいことです。
ーズバリ、「社長の奥さん=経理」は身内びいきだと思いますか?
出勤日数が少なかったり、経理の仕事ぶりが見えにくかったりすると、社員からは「やっぱり身内びいきか」と思われることもあるでしょう。
ただ、実際には出社していなくても自宅で雑務をこなしていたり、経理以外にも社長の身の回りのサポートをしていたりするケースも少なくありません。いわば秘書的な役割を兼ねていることもあります。
また、身内だからこそ売上が落ちたときに真っ先に給与を減らす対象になるのも奥さんです。給与の扱いも「個人」ではなく「家計単位」で考える面もあり、社長の給与と合わせて調整弁のように使われているのが実態です。
つまり、確かに“身内だから守られている”と見える部分もありますが、同時に“身内だからこそ都合よく使われている”という側面もあります。そのため、社員が想像するほど楽な立場ではないということを伝えたいですね。
◆橋本ひとみ(はしもと・ひとみ)
銀行勤務12年を経て、現在は複数企業の経理代行をおこなう。法人営業や富裕層向け資産運用コンサルティングの経験に加え、ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士の資格を持つ。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)

























