中国のGAC(広州汽車集団)が展開するブランドAION(アイオン)。日本での発売は未定だが、試乗を通して魅力をレポートする。
■トヨタとも協業するGACのBEVブランド「AION」
世界のBEV(バッテリー電気自動車)市場は、なぜか世界のGDPランキングに近い構図となっている。GDPではアメリカが1位、中国が2位。しかし、2025年上半期のBEV世界販売台数では、中国のBYDがトップに立ち、アメリカのテスラは2位に後退した。現在、BEV市場は中国とアメリカがけん引している。
そんなBEVの成長をリードするBYDの母国・中国。その中国では、今や200~300もの自動車メーカーが存在すると言われており、まさに“カオス”な状態だ。その中でBYDは世界トップに立つ存在であり、他にも数多くの新興ブランドがひしめいている。
今回試乗したのは、そんな中国のGAC(広州汽車集団)が展開するBEVブランド「AION(アイオン)」の「Y PLUS(ワイプラス)」だ。
GACは、トヨタとの合弁会社「GAC Toyota Motor」を通じて、トヨタ車の生産や販売も行っている大手メーカー。中国の自動車メーカーの中でも上位に位置し、主に東南アジア市場を中心に存在感を強めている。さらに、2025年9月には欧州市場への参入も発表されており、グローバル展開にも積極的だ。
今回試乗したY PLUSのほか、よりSUV色を強めた「V」、4ドアセダンの「ES」、コンパクトクロスオーバーの「UT」など、多彩なBEVラインアップをそろえている。
■AION Y PLUSの販売は未定
今回試乗したY PLUSは、インポーターであるMモビリティ・ジャパンがテスト的に導入したモデル。中古車販売大手「ガリバー」を展開するIDOMの協力のもと、店舗での展示や試乗を実施した。
IDOMは、EV普及の促進を間接的に後押しすることで、カーボンニュートラルの実現につなげたいと考えているという。「まずは一人でも多くの人にEVに触れてもらいたい」という思いから、今回の試乗会が企画された。ただし、IDOMでのAION車の販売は現時点では未定だ。
一方、Mモビリティ・ジャパンは今後、主に社用車リースなどを中心とした展開を計画しており、将来的にはコンパクトクロスオーバーの「UT」などの販売も視野に入れているという。
■個性派デザインのAION Y PLUS
Y PLUSは、AIONブランドの中でエントリーモデルに位置づけられるBEV(バッテリー電気自動車)。ターゲットは「若年層・都市部ユーザー・コストパフォーマンス重視層」で、日常使いに最適な1台として開発された。
外観デザインは、ひと目で印象に残る個性派だ。フロントフェイスには、BEVらしくグリルレスのデザインを採用。薄型の小さなヘッドライトと、ワイドに広がるデイタイムランニングライトが組み合わされ、精悍で独創的な表情をつくり出している。このフロントマスクは、斬新なデザインだ。試乗中も、通行人からの注目度は非常に高かった。
一方、リヤビューは世界的トレンドとなっている一文字タイプのコンビネーションランプを採用。やや無難な印象もあるが、シンプルで洗練されたスタイルは好印象だ。
インテリアもまた、若年層を意識したカジュアルな雰囲気が魅力。最近のBEVらしく、大型のセンターモニターを採用し、エアコンや走行モード、各種設定はタッチ操作で行える。
水平基調のインパネは直線的なデザインで、パステルグリーンのアクセントカラーが遊び心を演出。さらに、ホワイトをベースにグレーとパステルグリーンを組み合わせたシートカラーも洒落ていて、全体的に柔らかく明るい印象となっている。
運転席に座ってまず気づくのは、Aピラーの大きな傾斜だ。空気抵抗を抑えるための設計と思われるが、フロントガラスは広く、視界も良好。着座位置も高めのクロスオーバーSUVということもあり、取り回しやすさも感じられた。
そして、最大の驚きは後席の広さだ。Y PLUSは全長4535mmと比較的コンパクトなボディながら、ホイールベースは2750mmと長めに設計されている。そのため、後席の足元空間は非常にゆとりがある。身長170cmの男性でも足を組んで座れるほどで、実用性はかなり高い。
この優れた後席の広さを活かし、香港ではタクシーとしてもY PLUSが採用されているという。
■違和感のないモーターフィールと4つの走行モード
同じBEVであるテスラ モデルYは、操作系から物理スイッチを極限まで廃し、シフト操作までタッチスクリーン上で行うという徹底ぶりだった。慣れるまでにかなり時間を要した印象がある。
それに対し、Y PLUSのシフト操作は従来通り、ステアリング奥にあるレバーで行う方式を採用。頻繁に使う操作系は、やはりレバーやスイッチの方が扱いやすく、ユーザーにとっても安心感がある。
走行モードは、「i-Pedal」「Eco」「Normal」「Sport」の4種類を用意。とくに特徴的なのが「i-Pedal」モードだ。アクセルオフ時に強めの回生ブレーキが作動し、停止直前まではアクセル操作だけで速度調整が可能。最終的な停止にはブレーキペダルが必要だが、街中ではワンペダル感覚での走行ができるため、慣れると非常に快適だ。
「Eco」や「Normal」モードでも弱めながら回生ブレーキが作動。一方「Sport」モードでは、回生ブレーキは作動せず、アクセルオフでコースティング状態となる。この設定は少々疑問が残る。スポーツドライビング時こそ、回生ブレーキによる減速を活かしたメリハリのある挙動が欲しい場面だろう。むしろ、コースティングは「Eco」や「Normal」に適した制御ではないかと感じる。
なお、最近の欧州BEVでは、走行シーンによってはコースティングの方が電費効率が良いとされ、意図的にコースティングを多用するモデルも増えている。
「Eco」モードではアクセルレスポンスがやや鈍感になるが、日常域では不満を感じることはない。むしろアクセル操作が粗めなドライバーにとっては、乗りやすく感じるだろう。
Y PLUSの走り出しは、いかにもモーター駆動らしくスムーズで滑らか。モータートルクを強調して力強く加速するタイプではなく、穏やかな立ち上がりが特徴だ。
しかし、アクセルを深く踏み込むと、最大トルク225Nmが瞬時に立ち上がり、力強い加速を見せる。スペック上は150kW・225Nmと控えめな出力だが、実際の加速フィールはそれ以上に力強く、Sportモードでアクセルを全開にすると、シートに背中が押し付けられるような鋭い加速を体感できた。
この“体感的な速さ”の背景には、1695kgという比較的軽量な車重と、150kWの出力を重視したモーターセッティングがあると考えられる。
参考までに、Y PLUSと近いボディサイズを持つVW ID.4(Liteグレード)の車重は1950kg。Y PLUSの軽さは、走行性能における大きなアドバンテージだ。
■2つの顔を持つ乗り心地と、安心の航続性能
Y PLUSの乗り心地には、ある種の“二面性”がある。小さな段差程度の良路では、まるで路面を滑るようにスムーズに走行し、快適そのもの。この上質な乗り心地には、良い意味で驚かされた。
しかし、角の立った大きな段差や荒れた舗装路、高速域での走行になると様子が変わる。リアサスペンションから「ドン、ドン」と伝わる突き上げ感が顕著になり、車体上部の揺れもやや大きく感じられた。路面状況が悪化すると、トーションビーム式リアサスペンションの弱点が露呈する印象だ。
ハンドリングは穏やかで安定志向。キビキビとした応答性はないが、背の高いSUVとしては適度なマイルドさで、運転しやすいタイプといえる。
Y PLUSはFF(前輪駆動)で、モーターはボンネット下に搭載されている。エンジン車に比べフロントが軽いため、操舵時には軽快感も感じられた。
また、BEVは車体下部に大きく重い駆動用リチウムイオンバッテリーを搭載するため、重心が低くなる。これにより、車高が高いSUVでもカーブでは安定した姿勢を保ちやすく、Y PLUSも例外ではない。実際の走行でも、車高の高さを感じさせないしっかりとした安定感があった。
搭載されているリチウムイオンバッテリーの容量は63.2kWh。これは、2代目日産リーフ(ZE1型)のe+グレードと同等クラスであり、BEVとしては標準的なスペックだ。航続距離はNEDCモードで490km。実航続距離ではもう少し短くなると考えられるが、それでも日常ユースや週末のレジャー用途には十分な性能だろう。
なお、試乗車はCHAdeMO規格の急速充電にも対応しており、国内インフラとの親和性も高かった。
■コスパ良し!? Y PLUSの価格は400万円台から
気になるAION Y PLUSの価格だが、日本での正式発売はまだ未定。ただし、参考価格として提示されていたのは、エントリーグレードの「Elite」が410万円、上級の「Premium」が570万円という設定だった。
とくにEliteの410万円という価格は、BEVとしては比較的リーズナブルで、性能や装備内容を考えると“コストパフォーマンスの高いモデル”と言えそうだ。
同じ中国メーカーであるBYDは、2025年6月末時点で累計5305台(JAIA調べ)の販売を記録し、日本市場でも着実に存在感を強めている。さらに、2025年のジャパンモビリティショー(JMS)では、2026年末までに導入予定とされる軽自動車サイズのBEVも発表され、大きな注目を集めた。
こうした背景もあり、AIONを展開するGACにも、今後ますますの展開と進化が期待される。
■AION Y PLUS参考価格
・Elite:410万円
・Premium:570万円
(まいどなニュース/norico)
























