大皿にどーんが定番だけど…土佐の皿鉢(さわち)料理、小皿にシフト コロナ感染回避で新様式
2020/09/23 10:30
サバの姿ずし、カニなどを豪快に盛り付けた皿鉢料理。皿鉢は大きい物で直径60センチもある
「このままでは皿鉢(さわち)料理文化がなくなるのではないでしょうか?」。高知県内で仕出し店を営む女性から、高知新聞社に心配の声が届いた。新型コロナウイルスの影響を受け、皿鉢料理の注文が減っているという。取材を進めると、飲食店などは「土佐の食文化をなくすわけにはいかない」と「コロナ下の皿鉢」に知恵を絞っていた。
すし、エビフライ、焼き鳥からようかんまで、大皿にどーんと盛り付けた料理を分け合い、杯を交わす-。皿鉢は高知の宴席での定番スタイルだ。
しかし、意見を寄せてくれた女性によると、皿鉢の注文が多い法事は「3密」を避けるため小規模になり、弁当で対応。懇親会や歓送迎会もなくなっているという。
観光客の利用も多い高知市の老舗店「土佐料理 司」。皿鉢はカツオのたたきと並ぶ店の売りだが、月平均100枚はあった注文が、ほぼゼロに。そこで始めたのが皿鉢の県外発送だ。
小分けにして冷凍した料理を送り、盛り付けも楽しんでもらう。伊藤範昭総調理長(55)は「生ものを入れられないのは残念だが、納得いくものができた」。担当者は「高知に来たいけど来られない人に食べてほしい」と売り込む。
南国市の「岡林仕出し店」は、2人分の「ミニ皿鉢」を発売。大皿より一回り小さい直径30センチの使い捨て皿に、約20品を盛り込む。
皿鉢と言えば1万数千円が相場だが、ミニ皿鉢は3千円。「こんなに入っちゅうが?」と客も驚くお得感もあり、300枚近く売れた。店主の岡林立身さん(47)は「店の名前を知ってもらって、次は普通の皿鉢を食べてほしい」と話した。
一方、政府の専門家会議は「新しい生活様式」として、「大皿は避けて、料理は個々に」「多人数での会食は避けて」と示す。
「皿鉢NG」を宣告するかのような文言。これでは、宴席が復活しても皿鉢の出番は少なくなる。
高知市のホテル「城西館」では、浜田省司知事や県議ら100人が宴会を催した。座席の間を空け、献杯・返杯を自粛。「新しい生活様式」にのっとり、「対策すれば大丈夫」とアピールした。卓上に並んだのは、料理を小分けした小皿を大皿に載せた「皿鉢風」の料理。取りばしを使い回さないための工夫だ。
県内の郷土料理を紹介した「土佐の味 ふるさとの台所」の復刊を手掛けた畠中智子さん(61)=高知市=は「皿鉢はもともと身内で食べるもの」として、こう提案する。
「今こそ、地元の私たちが皿鉢を食べ、その良さを見直す機会にすればいいのでは」(高知新聞)
【皿鉢料理】 江戸時代からあるとされる土佐の名物料理。直径40センチほどの大皿にさまざまな料理を盛り付けた「組物(くみもの)」と、刺し身を盛り合わせた「生(なま)」が基本。皿の大きさや料理に厳密な定義はない。土佐料理研究家の故宮川逸雄さんは、著書で皿鉢が廃れない理由として、宴席で入り乱れて杯を差すのが好きな県民性や、参加人数が変わっても融通が利くことを挙げている。