「9月入学制」賛成56%、反対17% 「学習遅れ回復」「議論拙速」

2020/05/19 10:00

(注)四捨五入のため、合計しても100%にならない

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う学校の休校措置が長期化し、入学や始業の時期を4月から後ろにずらす「9月入学制」の議論が活発化している。神戸新聞社の双方向型報道「スクープラボ」でアンケートをしたところ、過半数の約56%が9月入学制に「賛成」と回答した。(太中麻美) 関連ニュース 9月入学 兵庫「反対」東京も慎重姿勢 都道府県調査 9月入学制/拙速な議論は混乱を招く 「お絵描き続けていてほしい」…タイムカプセルから出てきたボロボロの手紙 高校卒業時の自分から届いた優しくて温かい気持ち

 アンケートは7~11日、無料通信アプリLINE(ライン)で行い、三つの質問項目について1725件の回答を得た。
 是非を尋ねる問いには、55・9%が「賛成」と回答。「反対」の17・2%、「どちらとも言えない」の27・0%を大きく上回った。
 賛成と答えた人は、理由として「休校で遅れたカリキュラムを取り戻せる」「他国は9月入学が多く、留学の際に生じるずれを解消できる」などと、学習の遅れの回復と海外の制度に合わせるメリットを挙げる意見が多かった。
 神戸市の30代主婦は「今の学年が全うできず、行事や運動、部活ができない状態で進級、卒業するくらいなら、9月から仕切り直してほしい」と記した。また公立高校の50代男性教諭は「学校は勉強だけでなく、さまざまな取り組みから人を育てる場所。その機会が奪われている」と訴えた。
 9月入学に反対する立場からは「議論が拙速すぎる」「教育現場が混乱する」との懸念が挙がった。高専に通う男子学生は「国際標準に合わせるのは良いと思うが、議論や用意などが不十分」と指摘した。小学校の50代女性教諭は「今まで同じ学年として過ごしてきた仲間が、9月を境に分かれてしまう」とした。
 9月入学制を巡っては、4月に17県の知事有志が政府に導入を要請するメッセージを発表。大阪府の吉村洋文知事が賛意を示した。一方、兵庫県の井戸敏三知事は「新型コロナ対策と絡めるのは飛躍しすぎだ」「今は学習機会をどう確保するか、頭を悩ませないといけない」として否定的な考えを示している。
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 このアンケートは読者の多様な声を聞き取ることが目的です。無作為抽出で民意を把握する世論調査とは異なります。
■利点は「海外留学スムーズに」
 文部科学省は「9月入学」について、来年秋の導入を想定して検討を始めた。6月上旬には、政府が考えを示す見通しとなっている。
 9月入学が導入されれば、学習の遅れを来年秋までに時間をかけてカバーできる。また欧米諸国や中国などと秋入学の足並みがそろう形となり、海外留学や外国人留学生の受け入れもしやくすくなる。一方、行政の会計年度や企業の人事計画などで大幅な見直しが必要となる。
 文科省によると現段階で、幼稚園から大学まで、どの段階での変更するかは決まっていない。導入には、学校教育法施行規則で定める「学年の時期と周期」の変更が必須で、文科相が改定できる。しかし国会で審議し、法改正が必要となる公算が大きい。
 一方、神戸市須磨区の「マリスト国際学校」は既に秋入学を採用している。8月末に新しい学年が始まり、6月前後に卒業式がある。阿部洋子事務長(44)は「高校の卒業生は7割程度が海外の大学へ進学する。日本でも会社や大学の受け入れ態勢を整えれば、何も問題はないように思う」と話している。(斉藤絵美)
■受益者は一部、最善策か疑問
 山下晃一・神戸大准教授(教育行政学)
 教育史を振り返ると、日本の学校は本来、西洋と同じ9月に始まっていた。だが、明治期に徴兵対象者の届け出が4月に早まり、人材流出を危ぶんだ学校が追随して同時期に合わせた経緯がある。
 課題がはっきりしている一方、利点は不明瞭な点が多い。入学時期を国際基準に合わせても、受益者は一部だ。学習の遅れを取り戻すためには、9月入学が最善策なのか。今後、別の感染症が流行した場合はどうするか。その場しのぎの対応に見える。
 課題とされる会計年度との不一致は、欧州では当たり前。だが、春の入学や夏のスポーツ、冬の入試などの文化は変えてしまう。
 また義務教育の始まりが7歳半になる児童が出ることは問題だ。私立大学の5カ月間の学費(約1兆円)が宙に浮き、大学卒業と4月入社が定着している企業との接続も議論が進んでいない。(聞き手・井上 駿)
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