【10】従順で勇敢先住民隊員
2016/08/25 13:47
台湾で井登慧さん(後列右から4人目)が遊撃戦を指導した千早隊の隊員=1945年(本人提供)
「陸軍中野学校二俣(ふたまた)分校」(現浜松市)で遊撃(ゲリラ)戦教育を受けた井登慧(いとさとし)さん(93)=明石市=は1945(昭和20)年1月、台湾に配属され、先住民「高砂族」の遊撃隊の指導を任される。
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「台湾全土の集落から集めた高砂族で『高砂遊撃隊』いうのが各地に編成されて、二俣分校の出身者らが幹部になりました。私が任されたのは、台湾のちょうど真ん中辺りの阿里山です。海抜2千メートルを超える高地に拠点があって敵を迎え撃つ作戦でした。楠木正成が立てこもった山城の千早城になぞらえて『千早隊』いうてね」
「130人ぐらいの隊員はほぼ全員が高砂族です。軍靴を配ったんですけど、『いらん』言う者がおるんですね。普段から山の中をはだしで歩き回っとるから、足の裏の皮が分厚くて、とげが刺さっても平気やと。演習でも、彼らが使っていた刀で茂みを切り開いてどんどん進んでいく」
「目もいいし、勘もいいんです。台湾の山には『百歩蛇(ひゃっぽだ)』いうて、かまれたら百歩進むうちに死ぬほどの毒蛇がおったんです。高砂族は、全然怖がらんと隊列の先頭に立って歩いて、ピタッと止まったと思ったら、茂みの中の蛇を見つけ出して刀で切る」
「とにかく従順で、反抗したことはなかったですね。連合軍の上陸に備えてトンネルに武器や弾薬を運び込むことになった時も、重い荷物を文句も言わず運ぶんです。『アメリカが上陸してきたら、この刀で斬ってやる』言うて、戦意も高かった。『日本人の兵隊よりも頼りになるな』と思ったぐらいです」
井登さんは、遊撃隊の訓練に当たる一方、二俣分校で学んだ秘密戦の知識を使い、単独で行動したこともあったという。
「『怪しい無線が阿里山で送受信されている』いう連絡が入ったんで、隊員にも内緒にして、夜に私服で警戒に出ました。民家を回って、軒下に潜んで打電の音を確認するんです。結局、確かなことは分からなかったですけど」
「阿里山には日本の企業も進出しとったから、日本人も住んどりました。無線のこともあったんで、郵便局長に内密にお願いして、検閲とは別に内地への郵便を確認して。封筒ののり付けされた部分に蒸気を当てると、きれいに剥がれるんです。中身を読んだら、分からないようにまた封をする。全部調べとったことが明るみに出れば、問題が大きくなる思うたんで」
「『軍隊が訓練をしている』というような記述は、墨で塗りつぶしました。軍事機密ですからね。あと、『桜が咲きました』も。敵が知ったら、空襲の目標にするかもしれませんから」
連合軍に制空権を握られ、台湾への空襲も激しくなったが、井登さんの部隊に被害はなかったという。3月、連合軍は台湾を通過して沖縄・慶良間諸島に上陸。日本の敗色が濃くなっていく。
(小川 晶)