(7)「合葬」

2019/06/20 16:34

鶴林寺真光院の永代供養墓。多くの人が共に眠る=加古川市加古川町北在家

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 花田家の墓は、加古川沿いの丘に整備された加古川市営墓地「日光山墓園」(上荘町井ノ口)にあった。頂上に近く播磨平野を見渡すことができた。
 市内に住む花田正春さん(82)、千鶴子さん(76)夫妻が、九州から出てきたのは56年前。懸命に働き、娘2人を育てた。そして約30年前に新しい墓を建て、熊本県にあった先祖代々の墓を移した。正春さんは「費用はかかったけど、見晴らしが良くて、『ええ場所やな』と喜んだのを覚えている」と目を細めた。
 夫婦がこの地で生きてきた証しだったが、昨年「墓じまい」を決めた。きっかけは一昨年の正春さんの大病だった。肝臓がんが見つかった半年後に大動脈解離で10時間に及ぶ手術を受けた。退院後、いつものように墓参りすると、長い階段で息が上がった。膝が悪い千鶴子さんも苦しんだ。
 「もう少し頑張れるかと思っていたけど、パパ、そろそろ考えよか」。千鶴子さんが促した。「娘を嫁がせた時から、夫婦で何とかしないといけないと思っていた。でも元気なうちは取りかかれなかった」
 昨年11月、正春さんの母親の七回忌を終えた後、墓石を撤去した。遺骨を移す先は、自宅から近い鶴林寺真光院(加古川市)の永代供養墓。遺族に代わって寺が管理も供養も担ってくれ、将来の追加費用も必要ない。夫婦も同じ墓に入るつもりで生前予約した。
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 墓じまいをすると、寺の永代供養墓や納骨堂、公営墓地の合葬式墓地などに遺骨を移すことになる。特徴の一つは「合葬(合祀(ごうし))」だ。昔ながらの一般墓に入れるのは一族の遺骨のみだが、永代供養墓などは最終的に他の一族らの遺骨と一緒に納められる。
 寺と提携し、永代供養墓を手掛ける墓石販売会社「山石」(加古川市)によると、真光院では小型の墓石を設ける個別型(約260区画)はわずか3カ月ほどで希望者が集まった。
 同社では、約10年前に年400基ほど受注していた一般墓は3分の1近くまで減り、今は永代供養墓の受注数が一般墓の5倍以上になった。
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 加古川市の女性(60)も、約20年前に病死した夫の家の墓を閉じ、永代供養を選んだ。義母と協力しながら墓の管理を続けてきたが、義母は7年ほど前に足を骨折し、体力的に墓の世話ができなくなった。
 「今のお母さんの姿は、何十年後かの私。3人の娘たちもいつかはその年齢になる」。昨年、永代供養墓の広告を見て縁を感じた。でも認知症の症状が現れている義母に相談するのは難しかった。
 「お母さん、一人で決めてごめんなさい」。心の中で謝った。嫁いできた立場で3代が眠る墓をしまい合葬することに、迷いがなかったわけではない。
 夫や義父らは真光院で大勢の人と共に眠っている。散歩をする市民が多く、毎日のように誰かが墓参りする。みんなで見守るお墓。「形にこだわる必要はない。亡くなった人を暮らしの中で思い出すことが、一番心のこもった供養では」。今は、ここで良かったと思う。(切貫滋巨)
=おわり=

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