(5)施設暮らし 理想の最期へ“狭き門”
2019/09/10 05:30
夏祭りで親戚らと一緒に歌を歌う堂脇千鶴代さん=加古川市野口町水足、グループホームにしむら
8月25日。普段はデイサービスの場として使われているホールが、子どもからお年寄りまで約70人でいっぱいになった。浴衣を着ているのは、認知症高齢者が暮らす「グループホームにしむら」(兵庫県加古川市野口町水足)の入居者たち。家族や職員、ボランティアに囲まれ、夏祭りが始まった。
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ホーム母体の医院院長、西村正二さん率いるバンドの演奏に、縁日風の食べ物、手作りの飾り付け。入居者の堂脇千鶴代さん(88)は、親戚の大川比呂美さん(58)=仮名=らと席を囲んだ。男の子の肩をたたき、「南国土佐を後にして-」と歌を教えてやる。マイクが回ってくると、手拍子を取り、しっかりとした歌声を響かせた。
堂脇さんは夫に先立たれ、子どもはいない。加古川市内で一人暮らしをしていたが、認知症の兆候が出てきたころ、自転車で転んで骨折。入院、サービス付き高齢者向け住宅を経て昨秋、にしむらに入居した。
「おばにここで暮らしてほしいと、私が引っ張ってきたんです」と大川さん。傾聴ボランティアで訪れたにしむらの食事の匂い、庭の草花など、生活の手触りが心に残っていた。
堂脇さんはデイサービスの利用を経て入居。大川さんは「『デイの隣のところで泊まってみない?』と少しごまかして連れてきた」というが、堂脇さんはすぐになじんだ。編み物をしたり、入居者や職員とおしゃべりしたり。すたすたと早足で歩き、「何かないの」と言って調理も手伝う。
グループホームでは、入居者が自分にできる家事などを担い、家庭的な雰囲気が認知症の症状や進行を和らげるとされる。しかし増え続ける認知症高齢者に対し、施設の数、定員も少なく“狭き門”。「(待機者が目立つ)特養以上に入るのが難しい」と言われる。定員18人のにしむらでも、70人近くが待つ。半年待ってやっと声が掛かったとき、大川さんは「先送りすれば、次はいつ回ってくるか分からない」と即決した。
グループホームの費用は、月額十数万円以上と安くはない。大川さんは、実母にもにしむらで暮らしてもらいたかった。しかし国民年金では費用をまかなえず、あきらめた過去がある。「母にしてあげられなかった罪滅ぼしかな…」
夏祭りを終えたにしむらでは、お別れが続いた。
祭りを心待ちにしていた入居者の女性が2日後、親族に見守られ、103歳で亡くなった。さらに、16年前の開設時から中心的な存在だった職員、梅谷公子さんが9月1日、76歳で急死。ホームのリビングで入居者と過ごしているときに倒れ、そのまま亡くなった。
当たり前に一緒にいた人がいなくなり、それでもホームの日常は続いていく。大川さんは、人との触れ合いを大切にして生きてきたおばが、ここで見送られるときのことを温かな気持ちで想像する。
◇ ◇
■介護施設 種類ごとの注意点
介護施設は、高齢者や家族の頼みの綱。しかし、待機者の多さや費用面など、利用にはさまざまなハードルがある。施設の種類ごとに、注意点を確認する。
介護保険の施設サービスは、特別養護老人ホーム(特養)▽介護老人保健施設(老健)▽介護型療養病床▽介護医療院-の四つ。
特養は「以前ほど待つことはなくなった」という声もあるが、依然、待機者が多い。入所者の平均要介護度が4近くに上がり、職員2人がかりの重介護が増え、ほかの業務が手薄になりがちだという。
老健は入所期間が原則3カ月で、延長はあるが終身利用はできない。医療ケアがある反面、外部の医療機関の受診は原則できず、高額な薬の使用に制限がかかる恐れがある。
病院では、介護型療養病床が2024年3月で廃止。代わって18年に介護医療院ができた。介護医療院ではレクリエーションなど生活の場としての機能が強まるが、まだ東播地域に1施設しかない。
地域密着型サービスは所在地の市町村内に住む人だけが利用でき、認知症高齢者グループホーム、地域密着型特養(小規模特養)がある。
グループホームは費用がやや高く、医療やみとりの体制が不十分なところもある。地域密着型特養は一般型特養と機能はほぼ同じ。多くが個室を備えたユニットタイプだが、多床室に比べて費用は高い。
「施設」とひとくくりにせず、長所、短所を見分けておきたい。ある介護施設の担当者は「人手不足や経営面で余力がなくなり、規定のサービスを超えた柔軟な対応が難しくなっている」と指摘。やむを得ず入所を断ったり、退去を求めたりする場合もあるという。
施設は在宅介護に比べ高額で、身元引受人も必要になる。「ケアが必要でも、要介護度が低く、低収入で身寄りがない人の行き場がない」という課題もある。(広岡磨璃)