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震災遺児1995・2011 春菜、佳祐の物語

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ババ引いた?(撮影・峰大二郎)
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ババ引いた?(撮影・峰大二郎)

ババ引いた?(撮影・峰大二郎)

ババ引いた?(撮影・峰大二郎)

【佳祐の物語 家族だんらん 居間に余韻】

 赤く染まり、ふっくらとした頬。笑うと、目が細くなる。昨年10月、宮城県石巻市の自宅を訪ねると、辺見佳祐(けいすけ)(9)はあどけない笑顔で迎えてくれた。

 東日本大震災の津波で両親と祖母、姉の4人を一度に亡くした。自宅は流されずにすみ、家族のにおいが染みついた家で伯母の日野玲子(53)と暮らす。

 佳祐は一人でカードゲームで遊んでいた。「このカードが強いんだ」と、お気に入りの1枚を見せてくれた。

 震災から1年7カ月。玲子がこれまでの日々を語り始めた。佳祐はソファに移り、テレビをつけた。玲子が家族の死に触れると、リモコンで音量を上げた。

 佳祐はどんな思いを抱えているのだろう。話を向けようとすると、「この子は震災のことはあんまりしゃべらないから」と玲子がやんわりと制した。

 「テレビとか新聞って将来に残るでしょう。佳祐が大きくなったときに、『こんなだったんだなあ』って、振り返られると思うから」。玲子が、複数のメディアの取材を受ける理由だ。

 記者の問いかけに答えるのは専ら玲子。カメラは、家でゲームをしている佳祐の様子や、学校の友だちと話している様子を追う。

 「何でこうやって記者さんが来るのか、本人に分かっているのかどうか…」。最近もこんなことがあった。「テレビで被災者のニュースを見ていると佳祐が『この人たち、大変だね』って言うの。自分が一番大変なはずなのにね」

 2カ月後、再び石巻の自宅を訪れた。佳祐が「トランプやろう」と誘ってきた。居間のテーブルを囲み、「ババ抜き」が始まった。「神経衰弱」、「七並べ」。「大富豪」を教えると、佳祐はすぐにルールを覚えて、のめり込んだ。

 「ね、もう1回やろう」。「晩ご飯、食べてくでしょ」。台所で夕食を作っていた玲子が「もう本読みの時間でしょ」と注意しても、「もう1回だけ」とせがむ。

 佳祐の後ろの木棚には、何枚もの家族写真が飾られていた。

 2007年8月15日、宮城県の鳴子温泉にある高原で撮った写真。佳祐の隣に立つ姉の佳奈は、真っ黒に日焼けして、両手でピースサイン。白い半袖シャツを着て、幼い佳祐の右腕を抱くのは父正紀(まさき)だ。白い帽子をかぶった母みどりは、穏やかにほほ笑む。

 震災から、時が止まっていた。

 津波を免れた2階にあるこの居間は、あの日のまま。だが、にぎやかだった家族の日常が失われた。

 何度もトランプをせがむ佳祐。この居間にだんらんの余韻を感じているのかもしれない。「人が来るたびに、佳祐の遊びに巻き込まれちゃうんですよ」と玲子が笑う。

 「もう1回。いいでしょ」

 佳祐との「大富豪」は夜遅くまで続いた。

=敬称略=

(上田勇紀)

2013/1/17

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