震災で9割焼失の地区 防災意識「もっと啓発」 神戸
2013/12/30 20:37
備えの大切さを訴える崔敏夫さん=神戸市須磨区千歳町(撮影・峰大二郎)
阪神・淡路大震災で9割の住宅が倒壊、焼失し、47人が亡くなった神戸市須磨区千歳地区で、住民による初の防災アンケートが実施された。発案したのは、次男秀光さん=当時(20)=を亡くした崔敏夫さん(72)。回答は防災意識の低さが目立ち、「震災が生かされておらず、ショック。もっと啓発しなければ」と力を込める。(上田勇紀)
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在日コリアン2世の敏夫さんは、須磨区千歳町1で被災。東京の朝鮮大学校外国語学部2年だった秀光さんは成人式のため帰省中だった。震災前日の1月16日に東京に戻る予定だったが、風邪気味だった秀光さんを敏夫さんが引き留めた。
「アボジ(お父さん)、風呂行きましょう」。16日夜、秀光さんに誘われた。2人で銭湯へ行き、背中を流し合った。「卒業したら大学の先生になる」。秀光さんの夢を聞き、うれしくなった。
数時間後-。妻らと2階にいた敏夫さんは、押しつぶされた1階にいるはずの秀光さんを必死で捜した。息子と思って救出したのは隣人の3人。2階は南にずれ、1階の部屋がどこか分からなくなっていた。
その後、掘り出した秀光さんは、まるで眠っているようだった。「蛇口をひねった水道みたいに、涙が止まらなかった」。夕刻、あたりを火が覆った。葬式を終えて3日後に戻った自宅周辺は、焼け焦げたがれきの海に変わっていた。
間もなく19年。千歳にはマンションが立ち、新しく移り住んだ家族も増えた。2011年に発足した千歳地区自主防災福祉コミュニティの委員長に就任した敏夫さんは、住民の備えが気に掛かった。9~10月、千歳地区連合自治会で会員約600世帯に向けてアンケートを実施。南海トラフ巨大地震などへの日ごろの対策を聞いた。
回答は神戸学院大の舩木(ふなき)伸江准教授(防災教育)と学生が分析中だが、敏夫さんが自治会長を務める千歳町1だけをみても、家具転倒防止やガラスの飛散防止、水や食料の備蓄などの対策を取っている世帯はわずかだった。
大火に見舞われた経験から、消火器やバケツを配るなど地道な取り組みを進めてきた敏夫さんは「震災が生かされていないのではないか」と驚きを隠せない。「命を守るのは自分たち。災害は防げないが被害は減らせる。住民の結びつきを強め、備えを促したい」
アンケート結果は2月、地元住民に公表される予定。