震災遺児が亡き母への手紙朗読 神戸で追悼式

2014/01/12 19:10

母の遺影を胸に、震災後の日々を振り返る浦田楓香さん=神戸市東灘区本庄町1(撮影・宮路博志)

 阪神・淡路大震災の遺児らを支援するあしなが育英会の施設「神戸レインボーハウス」(神戸市東灘区)で12日、追悼式「今は亡き愛する人を偲び話しあう会」が開かれた。最愛の母を失った女性2人が手紙を朗読し、「これからも見守って」と呼び掛けた。(黒川裕生、上田勇紀) 関連ニュース 児童書204冊寄贈 成人式運営委が呼び掛け 西脇 東京・世田谷でLGBT成人式 「自分らしく生きていく」 福祉施設で新成人祝う 15人が抱負発表 三田

 「ともちゃん」。母の森智美さん=当時(19)=の遺影に、短大1年の浦田楓香さん(19)=同市灘区=がそう語り掛けた。
 兵庫区で被災し、智美さんはタンスの下敷きになった。生後4カ月だった楓香さんは智美さんの父母に引き取られ、その後養子に。ずっと祖父母が両親で、智美さんは姉だと聞かされて育った。だから「ともちゃん」。
 “両親”から本当のことを知らされたのは小学校3年の時。「そう言われても、よく分からなかった」。その後も3人の関係は変わらなかった。親がいない苦労を感じさせず、定年退職後も自分の学費のためパートを続ける祖父母には、感謝の思いしかない。
 来年、楓香さんは成人式を迎える。智美さんが楓香さんを生み、震災で命を奪われた年だ。「この年を乗り越えられたら、何でもできる気がする」
 東灘区の主婦近藤裕子さん(35)は、来月1歳になる長男稟太朗ちゃんを抱き、母山崎みどりさん=当時(43)=に思いを伝えた。
 西区の自宅は無傷に近かった。だが、みどりさんは揺れの衝撃で心臓が止まり、亡くなった。裕子さんは16歳、高校1年だった。
 2011年に結婚し、子を授かった。里帰り出産する友人らを横目に、夫と二人三脚での初産。不安になると、母の日記を読み返した。稟太朗ちゃんが生まれた時、「私ももう一度新しい人生を歩んでいくようだ」と喜びをつづった母の気持ちが分かった。
 眠いのかぐずっていた稟太朗ちゃんは、手紙を読むうちにおとなしくなった。「この子が大きくなったら、震災のことも伝えていきたい」。裕子さんは、いつも手帳に入れて持ち歩く母の写真によく似た笑顔を見せた。
 偲び話しあう会は1996年1月から開かれ、今年は遺児や保護者ら約90人が出席した。

■浦田楓香さんの手紙要旨■
 阪神・淡路大震災から19年、私も19歳になりました。長いようで早いようなそんな気分です。ともちゃんから見て私はどんな風に成長しているでしょうか?
 震災の時、私はたったの4カ月でした。だから私は、ともちゃん、お母さんのことは何も覚えていません。ともちゃんは写真でしか見たことがなくて、印象に残っているのは赤ちゃんのころの私とともちゃんが笑い合っている写真です。私が物心ついた時、ともちゃんはもういなかったので、なんだか不思議な気持ちになったのを覚えています。
 私は今、短期大学に通っています。周りの環境にとても恵まれ、特におじいちゃんやおばあちゃんには本当に迷惑をかけていて、感謝してもしきれないぐらい。この家族でいられて本当に幸せです。
 将来の夢はまだ決まっていませんが、少しでも自分と同じ境遇の子どもたちを笑顔にできるような人になりたいと思っています。
 来年成人式で、ともちゃんが亡くなった年齢になります。それがなんだか自分にとっては大きな通過点のような気がして、この年を乗り越えられたら何でもできる、そんな気がしています。だからその時まで私を見守っていてください。
 最後に、ともちゃん、私を生んでくれて本当にありがとう。

■近藤裕子さん手紙要旨■
 お母さんへ
 もうすぐ震災から19年もたちますね。お母さんと一緒に過ごした時間より、過ごさなかった時間の方がいつの間にか長くなっていました。けれど、いつも思い出します。そばにいて、見守ってくれているようです。
 去年稟太朗が生まれました。随分大人になってからの出産でしたが、初めてのことで不安もたくさんありました。そんな時、お母さんが書いてくれた母子手帳や日記にとても励まされました。私が生まれた時に「裕子の中には私の血が流れ、新しい人生を歩んでいく。私ももう一度新しい人生を歩んでいくようだ」と喜びが書かれていました。その日記を初めて読んだ時、そんな風に思ってくれたことをうれしく思いましたが、稟太朗が生まれた時に、本当に同じ気持ちになりました。今までよりもっと、お母さんが私を生んで育ててくれたことに感謝するようになりました。
 来月、稟太朗は1歳になります。大きな病気は一度もなく健康に育ってくれています。私も子どものころからめったに風邪をひかず、産後も一度も体調を崩しませんでした。お母さんが私を健康に生んでくれたからだと思っています。おかげで稟太朗も健康に生まれて感謝しています。
 子育てをしている中で、お母さんがいたら甘えられたのに、頼れたのに、と思うことがありますが、優しい旦那さんに手伝ってもらいながら、これからも楽しんでやっていきたいと思います。見守っていてくださいね。

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