根差す 東北の大地に
悲しみ糧に飛躍したい

森安章人(もりやすあきひと)さん (58)
医師・雄勝診療所長/仙台市泉区

 出身は神戸市垂水区ですが、医療を志して東北大に進んで以来、すっかり「東北人」です。3年前の秋、父の介護で帰りましたが、昨春に宮城県に戻り、雄勝(おがつ)診療所で聴診器を手にする日々です。
 東日本大震災では、院長補佐兼内科部長だった石巻市立病院で津波の被害に遭い、5日間孤立しました。大学の医局勤務で身動きが取れず、支援できなかった阪神・淡路大震災を思い出しました。
 耐震補強を施した5階建ての建物は持ちこたえましたが、高額医療機器などが置かれた"心臓部"の1階が水没しました。ライフラインが途絶した院内に医師、看護師、入院患者ら500人近くが取り残されました。「ユニホーム(白衣)はプロの証し。へこたれるな!」。自らと仲間を鼓舞し、混乱を最小限に食い止めました。
 来年夏、石巻市立病院は地域の中核医療機関として再開し、プレハブの雄勝診療所も新築します。深刻さを増す過疎・高齢化や在宅医療にも対応できるよう、患者情報の共有や、医師らの人材交流など「病診連携」の実現に向けた取り組みを進めています。
 「命をはじめ、多くのものを失った悲しみを糧に飛躍したい」。地域医療の再生へ、私たちの決意です。(聞き手・宮路博志)
=おわり=


2015年3月10日掲載
写真撮影場所:

宮城県石巻市雄勝町大浜