(4)避難所 「難民キャンプより劣悪」

2017/01/16 10:27

東日本大震災の災害公営住宅で暮らす今井幸夫さん。過酷な避難生活で1年前に亡くなった妻富貴子さんの遺影を飾る=福島県いわき市小名浜下神白

 1年前の2016年1月3日、福島県いわき市の災害公営住宅に住む今井幸夫さん(67)の妻、富貴子さんは78歳で亡くなった。 関連ニュース 避難所にも性的少数者はいる 被災者が啓発活動 震災から6度目の年越し 再建進むも長引く避難生活 震災22年 県知事、神戸市長インタビュー

 同県富岡町の自宅は、11年3月の東日本大震災による東京電力福島第1原発事故で、帰還が許されていない。発生直後は西隣の川内村に逃れたが、避難所は人であふれて入れず、車中泊した。さらに西にいった同県郡山市の避難所では、冷たいコンクリートの上に段ボールを敷いて過ごした。
 富貴子さんは認知症を発症。約4カ月後に仮設住宅に移り、15年2月には災害公営住宅で暮らし始めた。慣れない土地を転々とし、症状は進行していった。
 「避難生活でプライバシーはなかった。妻が精神的に落ち込んだのはそこが原因だと思う」。幸夫さんは富岡町への「震災関連死」の申請に、長期間に及ぶ過酷な避難生活を23ページにもわたって書き記した。16年9月、関連死と認定された。
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 3472人。発生から間もなく6年となる東日本大震災で、その関連死の数は増え続けている。
 阪神・淡路大震災では、兵庫県内の関連死919人について国も県も原因を分析していないが、東日本大震災では、復興庁が12年8月時点で岩手、宮城、福島各県の関連死のうち1263人の原因を調査。「避難所などにおける生活の疲労」が約3割、「避難所などへの移動中の疲労」が約2割、「初期治療の遅れなど」が約2割だった。
 国は災害対策基本法を改正し、市町村や都道府県に避難所などの生活環境整備の努力義務を課した。簡易ベッドの確保や災害用トイレの備蓄など、具体策を示した避難所運営ガイドラインを作り終えた時、熊本地震が起きた。ガイドラインは直後に前倒しで公表されたが、自治体の対応は間に合わなかった。
 神戸新聞社の取材では、熊本地震の関連死123人のうち、少なくとも30人が避難所に身を寄せていた。他にも避難所環境の悪さから車中泊をしていた人がいるとみられる。
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 国のガイドラインも万全ではない。例えば、避難所での避難者1人当たりの面積。国は具体的な数字を示していない。内閣府は「1・65平方メートルが一般的。手狭な気がするが、施設や避難者によって必要面積が違う」とする。一方、国際的な難民支援基準では1人3・5平方メートルが必要とされる。
 兵庫県は避難所管理運営指針で、3平方メートル以上が必要とし、最低でも2・1平方メートルとするが、姫路市が避難所収容人数の算出に使う面積は1人2平方メートル、西宮市は2・1平方メートル。神戸市は面積の想定をしておらず、避難所がどれだけ足りないのかも分からない。
 室崎益輝(よしてる)・兵庫県立大防災教育研究センター長は「そもそも災害救助法では1週間の避難しか想定していない。だから大災害で避難が長期に及ぶと、難民キャンプより劣悪な環境を押し付けてしまう。根本的な問題があいまいなままでは、関連死は防げない」と強調する。(高田康夫)

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