災害時の緊急情報伝達、放送波使いシステム構築 加古川

2018/01/15 21:50

加古川市立別府小学校の門などの鍵を保管するボックス。放送による遠隔操作で開錠でき、住民らが迅速に校舎上階に避難できる(加古川市提供)

 阪神・淡路大震災から17日で23年。災害への対策は進められてきたが、自治体が緊急情報をどうやって住民に届けるかは、依然として課題だ。どこへ逃げれば良いのか、どんな被害が予測されるのか。兵庫県加古川市は、テレビ放送の地上デジタル化で空いた周波数帯を使った放送で、市内各地に災害情報を知らせる新システムの構築に取り組んでいる。情報を送るだけでなく、避難先の鍵の保管箱を開錠するなど遠隔操作の機能もある。(切貫滋巨) 関連ニュース 兵庫の選挙人名簿登録者 9月1日時点で453.6万人 展示物を楽しく見てもらう工夫「もっと広い世界で」 活動の場をふるさと丹波からペルーに移した学芸員 北播磨の基準地価 商業地28年ぶり横ばい、小野は3年連続プラスに 住宅地は26年連続下落

 新システムは「V-ALERT(ブイ アラート)」で、放送波で専用端末や屋外スピーカーなどに音声や文字、画像などのデジタル情報を送ることができる。
 ■避難方法を的確に
 現在は実証段階だが、本格運用が始まれば、実際に南海トラフ巨大地震が発生した場合、次のような使い方が可能になるという。
 地震発生直後、市職員が住民に向けた情報をシステムで入力すると、同市志方町の山に置かれた中継局から放送波を発信。加古川の河口などに設置された屋外スピーカーからは大音量で「大津波警報が発令されました」との放送が始まる。沿岸部に住む町内会長宅などでは、放送を受信したラジオ型端末が自動的に起動し、「直ちに津波避難ビルへ避難してください」との音声が流れる。
 町内会長は周辺の住民らに呼び掛け、指定された小学校に向かう。学校の門は閉まっているが、門のそばにある鍵の保管箱は放送によって開かれており、駆け付けた住民が鍵を取って門と校舎の扉を開き、建物内へ。津波が迫る中、鍵を持つ市職員を待たずに、上階へ避難することができる。建物の外階段に付けられた照明も、放送によって点灯する。
 津波被害の恐れが少ない、海から離れた地域の端末からは「海岸や川沿いに近づかないように」といった音声が流れる。地域ごとに別の内容を発信することができるのが新システムの特長。例えば水害で避難勧告などが出た地域の端末だけに、情報を発信することも可能だ。
 ピンポイントの情報提供はスマートフォンなどへの防災メールでは不可能で、同市危機管理室の担当者は「Vアラートなら、それぞれの地域に合った避難方法を的確に伝えることができる。またインターネットだけでなく、別系統の手段を持つことは重要」と話している。
 ■スピーカー増設へ
 防災行政無線が無い同市はこれまで、情報の周知はメールや広報車による呼び掛けに限られていた。同市は2017年度、総務省と協力して端末開発や効果の確認などの実証事業を行っている。
 同市は、専用のラジオ型端末約500台を町内会長や消防団関係者、福祉施設などに配布。昨年11月の災害訓練などで端末の受信や鍵保管箱の開錠の検証を行った。現在のところ、設置している屋外スピーカーは加古川河口に1台、鍵保管箱は別府小学校1カ所のみだが、18年度以降に増設を検討する。
 同時に同事業の一環として、ネットを通じて情報を提供するスマートフォン用アプリの開発にも取り組んでいる。

 【V-ALERT(ブイ・アラート)】テレビのアナログ放送用だった周波数帯を使う「V-Lowマルチメディア放送」を活用する防災情報の配信システム。加古川市は、近畿圏で放送を行う「大阪マルチメディア放送」の協力を得ている。全国では福島県喜多方市も同システムを導入する方針。

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