焼け野原に残ったキリスト像 1・17で外国人救援の拠点に

2019/01/13 05:30

「顔見知りの関係をつくることが大切」と語る神田裕さん。聖堂の壁には、ベトナム、ハングル、日本語で表記されたタペストリーがある=カトリックたかとり教会

 焼け野原に残ったキリスト像は、阪神・淡路大震災から24年がたとうとしている今も、変わらず立ち続けている。震災の2年ほど前に、ベトナム人の信者らが故郷から取り寄せ、神戸市長田区海運町3のカトリック鷹取教会(現・カトリックたかとり教会)に設置した。外国人信者が多く集う教会は「あの日」、大火に遭い、聖堂は焼失した。それでも、被災後最初の日曜日の朝には、50人ほどの信者がポツポツとやってきた。小雨で寒さがしみる屋外でのミサだった。 関連ニュース 最後のトーホーストア閉店 神戸の阪神大石駅店に惜しむ列 兵庫で61年の歴史に幕 神戸マラソン2024、復興の地を2万人駆ける 阪神・淡路大震災から来年1月17日で30年 神戸の街、2万人が駆け抜ける 「神戸マラソン2024」17日号砲 終盤の難所は今大会が最後に

 「目指していたのは復興だけ」。神田裕神父(60)は振り返る。建物から火の手が上がった時、消火器で食い止めようとしたが到底追いつかなかったことを、昨日のように覚えている。焼失を免れた建物を救援基地にすると、再建や外国人の行政手続きを手伝ったりする多くのボランティアが支援に駆け付けた。
 日本語に不慣れな外国人は、避難所のルールが分からなかったり、義援金の受け取りや仮設住宅の情報が伝わらなかったりした。
 そこで被災直後に始まったのが、在日韓国・朝鮮人に向けた「FMヨボセヨ」と、神田さんらが立ち上げたベトナム人や南米出身者向けの「FMユーメン」だ。震災の年の7月には組織を統一し、教会に放送局を設立。両局の頭文字を取って「FMわぃわぃ」としてスタートした。
    □  □  
 「在日コリアンの力持ちが、がれきの片付けを手伝ってくれてめちゃめちゃ助かった」「名古屋に住んでいたけれど、仲間の救援で神戸へ行った」
 今月5日、「わぃわぃ」の1コーナーである「ワンコイン番組」では、震災当時の話題が取り上げられた。代表理事の金千秋さんは「1月は特に震災の記憶をたどり、災害時に外国人がどう備えるかをテーマにした番組が増える」と話す。
 現在、英語やスペイン、韓国・朝鮮、アイヌ語など多彩な言語で情報を伝える。海外の被災地と交流をしたり、東日本大震災では東北地方の臨時災害FM局の立ち上げを手伝ったりするなど、「8割が(放送以外の)オフエアーの活動」。財政難などで2016年からはインターネット放送に切り替えたが、17、18年の1月17日は1日限定でFM放送を復活させ、今年も追悼会場で生放送される。
 震災後、神戸には外国人住民が増えた。しかし、外国人の災害支援や防災対策は「ほとんど前進してないんとちゃうか」と神田さんは言う。ただ、教会での救援活動はニーズに応じて細分化され、「わぃわぃ」を始めとする多くの団体が今も活動を続けている。震災前はほとんど接点がなかった地域との交流にも力を入れる。
 「隣にいるのは『外国人』じゃなくて、同じ場所で暮らす住民だと思えたら、“多文化共生”なんておおげさな言葉はいらない。名前で呼び合える関係づくりの根っこを育てる努力が必要だ」
   ◇   ◇ 
 神戸市の外国人登録者数はこの20年で5千人近く増えた。一方で、大規模災害が起きたときには、外国人が言語や避難所での集団生活などで「弱者」になる恐れもある。震災24年を前に、身近な存在になった外国人と防災(BOSAI)、自助・共助について考える。(久保田麻依子)

■通訳できる90人が登録
 神戸国際コミュニティセンター(KICC、神戸市中央区浜辺通5)では、大規模災害が起きると同センター内に外国人専用の相談窓口を設置し、外国人の困り事に対応したり、情報提供を行ったりする。
 相談窓口は市の要請を受けて臨時に開設する。避難所で通訳者が必要な場合の対応や、避難所内の表示物を翻訳するケースを想定しているという。多言語に対応するため、通訳のスキルがある市民約90人が「災害ボランティア」として登録されている。
 また、災害発生時の対応をまとめた防災カードを6カ国語で制作し、区役所などで配布している。
 KICCTEL078・291・8441

神戸新聞NEXTへ
神戸新聞NEXTへ