レンズ通して震災と向き合う 「東日本」被災者を記録映像に

2019/01/13 07:30

(左から)佐藤直志さんと中北富代さん、夫の幸さん=岩手県陸前高田市(中北さん提供)

 阪神・淡路大震災で長女百合さん=当時(14)=を亡くした兵庫県西宮市大井手町の中北富代さん(66)が、ドキュメンタリーを作っている。震災後に家を再建した建築家の夫、幸(こう)さん(66)と、東日本大震災の津波で長男を亡くした土地で自ら家を再建した80代の男性との交流を記録。レンズ越しに震災当時の自分とも向き合う。「いろんな出会いを紡いでくれたのは百合」。震災から時を重ねて、そう感じる。(中川 恵) 関連ニュース 大震災の被災湾で希少な小魚発見 宮城・南三陸、謎解明期待 黄金色の復興米今年も収穫、大阪 一部は岩手・大槌に「里帰り」へ 大震災の教訓、体験型で発信を 伝承施設、シンポジウムで紹介

 2017年10月、ドキュメンタリー映画監督の池谷薫さんの作品「先祖になる」を見た。主人公は岩手県陸前高田市の佐藤直志さん。森へ入って木を切り出す佐藤さんの姿に、自ら図面を引いて家を再建した夫の姿を重ねた。「夫を直志さんに会わせたい」。その場面を記録しようと、池谷監督が神戸市で開講したドキュメンタリー塾で指導を受け、昨年6月、2人で佐藤さんを訪ねた。佐藤さんは、被災後に家を再建した幸さんを「大先輩」と呼び、幸さんは「人生の師匠に出会えた」と喜んだ。
 中北さんは、夫が再建した家と、自分たち家族の思いも映像に残すことを思い立った。長い間気がかりだったのは、震災のとき、小学4年と6年だった2人の息子。「私の目と心はいつも(亡くなった)百合の方を向いていたと思う」。弟2人をないがしろにしていなかったか。ずっと申し訳ない気持ちを抱いてきた。
 意を決して、既に家庭を持つ2人に撮影依頼の手紙を書いた。息子たちは「母さんのためなら」と快諾。2人はカメラの向こうで「子どもを持ち、当時の父さんと母さんの絶望に似たような気持ちが、少しだけ想像できるようになった」と語った。撮影する中北さんが寂しくなかったかを問うと「何も思っていない」と応じた。カメラがあるから聞けた、息子たちの素直な心情だった。
 昨年訪れた陸前高田市では、佐藤さんが「津波のおかげで得たものはたくさんある」と話し、驚いた。悲しみを乗り越えた末の言葉とは分かっている。でも「私は『震災のおかげ』という言葉を使えない」と話す。
 娘を失って「自分の半分は死んだ。後は付け足しの人生だ」と考え、小さな目的をつくって少しずつ頑張ってきた。3月には撮影した映像を作品として完成させるつもりだ。中北さんは「百合が道を用意してくれたのかもしれない。私たちは彩り深い人生を歩ませてもらっている気がする」とほほ笑んだ。

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