母娘の絆、物語を絵本に 神院大生が制作「命伝える教材」

2019/01/16 14:30

話し合いながら絵本づくりを進める学生たち=神戸市中央区港島1

 神戸学院大(神戸市中央区)の学生らが、阪神・淡路大震災で犠牲になった少女のはさみを題材に、絵本づくりに取り組んでいる。はさみの持ち主は、当時西灘小5年だった浅井亜希子さん=当時(11)。亡くなってから20年目の2014年に学校で見つかり、母親の元へ戻ってきた。震災を知らない若い教師や子どもが増える中、絵本を防災授業の教材として広めていく。(末永陽子) 関連ニュース オート三輪、チンドン屋、ロバのパン屋…昭和30年ごろの暮らし、折り紙で作って一冊の絵本に 画家・絵本作家アキノイサムさんの迫力の絵巻 晩年過ごした上郡で展示 歯科医が絵本を自費出版「はいしゃさんがだーいすき!」子ども定期検診のきっかけに


 亜希子さんは震災で灘区の自宅が全壊。母親の鈴子さん(65)と家の下敷きになった。2人とも昼ごろに助け出されたが、亜希子さんは長時間建物に圧迫されたことで「クラッシュ症候群」を発症。2月10日に亡くなった。
 鈴子さんは05年に仲間と語り部のグループを結成。亜希子さんの最期を語り、命の尊さを訴え続けてきた。
 フルネームが書かれたはさみが見つかったのは、14年3月。学校で片付け中に教諭が名前に気づき、鈴子さんに郵送した。
 絵本にしたら、子どもにも震災を知ってもらえるのでは-。語り部グループと交流を続ける同大社会防災学科の船木伸江准教授がエピソードを知り、学生に提案。2年生10人が去年9月から鈴子さんにインタビューを重ね、物語を練った。
 絵本は、震災前の平穏な5人家族の情景からスタート。亜希子さんが亡くなった後は、鈴子さんのせりふで、娘を助けられなかった後悔、死を受け入れられない苦しみ、語り部を続ける上での葛藤を表現した。
 何で。何で。あきこが私より先に死ぬん。もう生きていても…
 本当は当時のことなんて思い出したくない
 ラストは、送られてきたはさみを鈴子さんが手にするシーン。緑色のはさみの向こうに、亜希子さんの姿を重ねた。
 まるであっこちゃんが会いに来てくれたようでした。あきこ、ありがとう
 学生のインタビューで鈴子さんは「私は亜希子に生かされている」と繰り返したという。
 文章をまとめた大野美波さん(19)は「浅井さんがつらい記憶と戦いながら語り部活動を続けてきたから、あっこちゃんが会いにきたんだと思う」。新妻彩乃さん(20)は「震災の被害と同時に、家族の大切さや絆も伝えたい」と語った。
 絵本は制作中で、3月末までの完成を目指す。

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