大震災で生まれたアート 神戸で2つの展覧会

2020/01/17 08:58

被災地のハクモクレンが題材の福田美蘭さんの作品(左端)=兵庫県立美術館県立美術館

 震災から25年。神戸市内で関連の展覧会が開かれている。兵庫県立美術館(同市中央区)がコレクション展で企画した特集展示「もうひとつの日常」は震災で生まれたアートにも焦点を当て、ギャラリー島田(同区)の「25年目の1・17」展は所蔵品を中心に構成。絵画や写真の数々から、多くの人々の運命を変えた「あの日」と「今」、未来への希望が浮かび上がる。(堀井正純) 関連ニュース 最後のトーホーストア閉店 神戸の阪神大石駅店に惜しむ列 兵庫で61年の歴史に幕 神戸マラソン2024、復興の地を2万人駆ける 阪神・淡路大震災から来年1月17日で30年 神戸の街、2万人が駆け抜ける 「神戸マラソン2024」17日号砲 終盤の難所は今大会が最後に

■県立美術館「もうひとつの日常」
 特集展示のテーマは「日常」。慈しむべき穏やかな日常は、戦争や自然災害で失われたとき、かけがえのないものとなる。
 「非日常」が日常となってしまう日々を背景とした作品を集めた一画には、大戦末の神戸空襲を記録した戦前の前衛写真家・中山岩太のモノクロ写真が並ぶ。洋画家小磯良平の絵は、軍人らが題材の「会談の前」(1942年)の真横に、少女たちが合唱する姿を捉えた代表作「斉唱」(41年)を展示。「戦争」と「平和」が隣り合う。
 近代の彫刻家・北村四海のブロンズ像「橘媛(たちばなひめ)」は、戦災と震災を生き延びた大作。戦前の制作と推測され、戦中の金属供出を免れ、震災後、98年に取り壊された神戸市内の邸宅の庭から、美術関係者らによって“救出”された。
 神戸・長田の画家・吉見敏治さんは、震災直後の被災地の惨状を木炭やコンテで描き、地震への怒り、悲しみを紙に刻んだ。横倒しになったビルや崩壊した家々、うねり波打つレールと電車…。絵の前に立つと、すさまじい破壊のエネルギーに戦慄(せんりつ)し、現実とは思えぬ光景に呆然(ぼうぜん)とした、「あの日」がよみがえる。
 絵に被災地再生への祈りを託したのは、美術家・福田美蘭(みらん)さんの「淡路島北淡町のハクモクレン」(2004年)。ガレキの中に残された樹木に掛けられた「この木を残してやって下さい」という札。その情景を撮った95年の報道写真を板に貼り付け、写真の周囲に、青空の下で咲き誇る白い花々を想像し描き足した。「現実」と「希望」を接続した絵の中で、過去と現在・未来とがつながる。
 災害時に「美術は無力だ」といわれる。だが、同館の江上ゆか学芸員は「美術的な考え方は、偏狭な正しさだけの判断をひとまず宙づりにし、多様な側面から眺めることを可能にする。災害の前も後も、答えのないさまざまな問いをそれぞれに抱え、考え続けることこそが重要」と指摘する。
 3月1日まで。一般500円ほか。同館TEL078・262・0901
■ギャラリー島田「25年目の1・17」
 「25年目の1・17」展は、震災で犠牲となった画家・津高和一さんらの絵や写真約30点や書籍などの資料で、この四半世紀を振り返る。
 津高さんに師事した画家吉田廣喜さんによる「跡A」は、全壊した津高さんの家とアトリエ、庭をイメージさせる抽象画。何ともいえぬ切なさがにじむ。無人の青い部屋に椅子を描いた、画家井上よう子さんの絵には、亡き人への鎮魂の思いが折り重なっているよう。「青」は悲しみや孤独の象徴でもあるのだろうが、眺めていると、心が浄化されていくようでもある。
 美術家古巻和芳(こまきかずふさ)さんの「神戸三篇」は、神戸を襲った災害がモチーフ。「阪神大水害」「神戸空襲」「阪神大震災」を主題にした、神戸の詩人・安水稔和さんの詩3編を、透明なアクリル板に記し重ね、神戸の地図の前に立てた。時空を超え、人々のうめき苦しみが生々しく立ち上がってくる。
 22日まで。無料。ギャラリー島田TEL078・262・8058

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