刻まれた名前に約束「来年も来るから」 次男亡くした女性

2020/01/17 13:35

震災で亡くした次男の名前が刻まれた銘板の前で話す荻田貞子さん=17日午前8時41分、神戸市中央区、東遊園地(撮影・小林良多)

 息子が大人になろうとしていた街に、今年も足を運んだ。高松市の荻田(おぎた)貞子さん(74)は、次男の雅也さん=当時(20)=を神戸市兵庫区で亡くした。「25年はあっという間」と東遊園地の灯(あか)りを見つめた。 関連ニュース 【写真集】阪神淡路大震災直後の神戸 イチロー「パンツ1枚で部屋から飛び出した」 「放っといてよ」が最後の会話 伝えられなかった母への感謝、1・17に毎年FB更新

 スポーツ推薦で高校に入学するほどサッカーが得意だった雅也さん。「いつもみんなの真ん中。友達も『笑顔の雅也しか覚えていない』と言ってくれる」
 大のゲーム好き。コンピューターを学ぶため、神戸市中央区の専門学校に入学し、同市兵庫区塚本通6の寮で暮らした。「計算は速かったの。左利きでね、こう、左手で書いて消しゴムは右手。動きが速かっただけかな」。雅也さんの表情やしぐさは目に焼き付いている。
 震災は朝のニュースで知った。寮に電話してもつながらなかったが、何かあれば連絡があると仕事に向かった。昼になっても電話は来ず、学校に問い合わせた。「荻田さんですか…」。電話口の職員の声の低さにはっとした。圧死だった。「年末年始は帰省して、10日に神戸に戻った。もう少しいてくれれば」
 17日午後10時ごろ、高松市から夫と長男と霊きゅう車に乗って、遺体安置所に向かった。着いたのは翌日の午前9時半。「持たせた布団をかぶせてあったからすぐに見つけられた」。顔はきれいなままだった。
 今もお墓に誰かがお花を供えてくれている。「優しい子だから天国でも、4年前に他界した主人の面倒を見てくれているだろうな」
 来年も神戸に来るから。それまで元気でいなくちゃね。刻まれた名前に約束した。(喜田美咲)

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