25年の教訓「災前の備え」 「阪神・淡路」再考のとき
2020/01/17 22:50
日が暮れても追悼の人波は途切れなかった神戸・東遊園地。昨年を約6千人上回る約5万4千人が訪れ、過去5番目の人数となった=17日午後5時46分、神戸市中央区加納町6(撮影・小林良多)
6434人が亡くなり、3人が行方不明になった阪神・淡路大震災は17日、発生から25年を迎えた。四半世紀に及ぶ「災後」に生まれた教訓を「災前」の備えに-。被災地では今、新たな動きが生まれている。被災者支援を総合的に見直す法制度の提言。平時から街の将来像を話し合って権利調整までする「事前復興」。そして、超高齢社会で災害弱者の命を救う「防災と福祉の融合」。「災間」を生きる私たちが次なる災害に立ち向かうため、阪神・淡路を今一度見つめ直す。
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「災後」は苦闘の連続だった。避難所などの劣悪な環境が関連死を生み、住まいを失った人たちに公的支援はなく、復興まちづくりは権利調整が難航し、長期化した。
苦闘の中から生まれたものもある。被災者の声がうねりとなって制定された被災者生活再建支援法。その後の改正で住宅被害への公的補償が実現した。
だが、支給要件は「大規模半壊」以上。災害救助法に基づく応急修理費補助制度もあるが、この法律にも補助要件に細かな規定があり、被災者が複雑に「線引き」される事態を招いている。災害のたびに、一部の被災者が支援対象から外れたり、継続的な支援を受けられなかったりしている。
関西学院大災害復興制度研究所(兵庫県西宮市)は昨年8月、「被災者総合支援法案」を発表した。最大300万円の支援金を600万円まで増額。切れ目のない被災者支援を掲げ、現状に一石を投じる。「被災者一人一人の復興」に向け、市民の声が再び法制化へのうねりを生むのかが問われる。
被災地に大規模に導入された土地区画整理と再開発の復興まちづくり事業は、行政と住民にあつれきを生み、長期化した。土地所有者や借地・借家人、地元の自営業者…。地域住民の合意形成は容易ではなかった。住み慣れた地域を離れた人も多く、コミュニティーの分断が起きた。
その経験を経て注目を集めるのが「事前復興」だ。街のあるべき将来像を住民や行政が平時から話し合い、災害から素早く復興を果たす考え方だ。
南海トラフ巨大地震で津波被害が懸念される南あわじ市福良地区では、防災の専門家が主導して実験的なワークショップを展開。東京都などで事前復興を参考にした復興計画策定の動きが出始めた。しかし、平時に権利調整などを含む話し合いには「現実感」の壁がつきまとい、広がりを欠いているのが実情だ。
また、少子高齢化が進む中で「誰もが助かる社会」をつくるため、防災と福祉の融合も喫緊の課題となっている。
避難に支援が必要な高齢者や障害者を記した「避難行動要支援者名簿」は、兵庫県内41市町で約43万人が登録されている。名簿情報は住民避難に生かすため地域に提供するが、実際の提供は3割にとどまる。災害弱者の避難に対して、主体的に責任を負う地域団体が育っていない。
要支援者の避難方法や介助者を定める「個別支援計画」の策定はわずか1割。丹波篠山市や同県播磨町などで取り組みが進むが、神戸市などの都市部で難航している。
震災が残した、地域のつながり、支え合いが大切だという教訓と課題を生かす時期を迎えている。(金 旻革)