【13ー1】復興住宅 「鉄の扉」、孤絶した被災者
2020/02/15 10:54
高齢者の自宅で話し相手になる生活援助員(LSA)の城戸昌子さん。今も見守り支援を続けている=2002年12月27日、芦屋市陽光町、南芦屋浜団地
「トイレの電球が交換できない」「ペットボトルのふたを開けてほしい」。約400戸ある兵庫県芦屋市陽光町の復興住宅「市営南芦屋浜団地」を、生活援助員(LSA)の城戸昌子(68)が走り回る。
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LSAは団地の見守り役。高齢者や障害者の安否確認、家事援助、緊急対応などを担う。市町の委託を受けた社会福祉法人などのスタッフが、復興住宅を含む高齢者向け公営住宅「シルバーハウジング」に常駐し、生活の不安や悩みに寄り添う。
同団地は、阪神・淡路大震災の被災者向けに整備された。1998年4月の完成以来、兵庫県内の公営住宅で唯一、365日24時間体制でLSAが配置され、今も集会所にスタッフ7人が交代で寝泊まりする。
同年10月から携わる城戸は、多い時で1日に80~100戸を訪ねてきた。「困っている人に元気になってもらいたい一心だった」。集会所にともる明かりは住民に安堵(あんど)をもたらしてきた。
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震災後に整備された2万5421戸を含め、復興住宅は4万1963戸が供給された。住まいを失い、避難所、仮設住宅を転々としてきた被災者がようやく得た安息の場のはずだった。
ただそこに、思わぬ壁が立ちはだかる。「鉄の扉」。仮設住宅でせっかく築かれたつながりを、復興住宅に入居するための抽選が断ち切った。扉を閉めた部屋は外界から孤絶し、被災者の孤立感を強めた。そして、孤独死が相次ぐ。事態を打開すべく導入されたのが、LSAをはじめとする見守り事業だった。
それから約20年。復興住宅の高齢化率は2019年11月時点で過去最高の53・7%。県が調査を開始した19年前から13・2ポイント上昇した。見守り活動の必要性は増すばかり。だが、現実はむしろ逆方向に進んでいる。
神戸市は18年度、市内約2400戸のシルバーハウジングに常駐していたLSAを廃止した。介護保険法で定められた地域包括支援センターのスタッフが、公営住宅全般の見守りを担う態勢に転換した。市の担当者はその理由を「被災者だけを手厚く支援することに理解が得られにくくなった」と明かす。
高齢化は復興住宅にとどまらない。同市内の市営・県営住宅は6万戸以上。LSAが常駐した住宅の25倍に及ぶ。LSA施策を全体に一般化するだけの人材も財源も見当たらない。
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高齢化の急激な進展が、阪神・淡路の教訓を廃れさせている。「コミュニティーで支え合える仕組みを行政が提供してこそ、助け合いの可能性は広がる」と兵庫県立大大学院減災復興政策研究科長の室崎益輝(よしてる)(75)。そのヒントとして挙げる事例は、11年の紀伊半島豪雨で被災した奈良県十津川村にあった。
同村は山崩れで死者・行方不明者12人の被害を出した。高齢化率は全国平均28%よりはるかに高い40%超。安心して暮らし続ける住まいづくりが大きな課題になっていた。
3年前に整備された村営住宅「高森のいえ」。地元産スギの木造家屋9戸に、単身高齢者や子育て世帯の計14人が住む。1棟に高齢者宅2戸が連なり、つながった縁側で雨が降っても会話ができる。そこで生まれたつながりが、大雨の際に住民同士の安否確認を習慣化させた。
「多世代共生の支え合いを生み出せた」。同村担当者は手応えを感じている。=敬称略=