学生が挑む、復興住宅に絆再び 尼崎・市営久々知住宅
2021/01/12 05:30
尼崎市営久々知住宅シルバー棟の談話室で話を聞く関西国際大の学生たち(関西国際大提供)=尼崎市久々知3
阪神・淡路大震災の災害復興公営住宅「尼崎市営久々知(くくち)住宅」にある高齢者向けのシルバー棟を、兵庫県尼崎市を拠点とする園田学園女子大と関西国際大の学生が訪ね、交流を始めた。同棟は、共有の談話室などを設けて住民間の交流を促す「コレクティブハウジング」として1999年に整備されたが、20年以上が過ぎ、高齢の住民間で支え合いが難しくなっていた。震災を直接知らない大学生は入居者から被災の体験を聞き、住宅の活性化策を考えている。(井上 駿)
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■高齢化、コロナで住民の交流希薄に-
久々知住宅のシルバー棟(4階建て22戸)は一般棟と並立し、1、3、4階に談話室がある。60~90代の16人が入居し、生活相談を受け、安否なども確認する生活援助員が週2回派遣される。尼崎市によると、当初は、餅つきなどのイベントが催されたが、徐々に減少するなど、住民のつながりは薄れているという。
2018年1月には、一室が全焼する火災が起き、「退去者も出て意気消沈してしまった。談話室など良い設備があるのに人が集まらない」とシルバー棟自治会副会長の田中トシ子さん(87)は嘆く。そこにコロナ禍が追い打ちをかけた。
■被災体験聞き、活性化模索
こうした状況に、当初からシルバー棟を支援する社会福祉法人「阪神共同福祉会」(尼崎市)の中村大蔵理事長(75)が同市と協議。昨年夏に「大学と行政、地域で入居者を支えてほしい」と園田学園女子大と関西国際大に呼び掛けた。
大学側も協力し、昨年11~12月にそれぞれの学生が棟を訪問。入居する高齢者から、26年前の震災で自宅が倒壊して体育館で過ごした避難所生活や、仮設住宅で入居者同士の助け合いがあったが復興住宅に移って離ればなれになってしまった経験などを聞き取った。
担当した園田学園女子大の山本起世子教授によると、学生からは「信頼関係を築くため、茶話会など身近な交流を」「ウオーキングなど健康的な活動をする」などの意見が挙がった。両大学とも21年度も活動を続ける方針という。
阪神・淡路大震災の後、高齢者の独居死などを受けてケア付きの仮設住宅が広がり、兵庫県では全国初の公営コレクティブハウジングが導入された。神戸、尼崎、宝塚市内に10カ所、計341戸が完成したが、現在は高齢化し、住民同士の活動は減る傾向にある。
仮設住宅に住む高齢者の支援に奔走した中村理事長は「震災で人と人との絆が命を救うと気付かされた。学生の力を借りてお年寄りを元気づけてもらい、持続的で自立した公営コレクティブハウジングのモデルになれば」と期待している。