新型コロナで注目 感染症との闘い、その歴史とは
2020/05/17 13:00
神戸新聞NEXT
新型コロナウイルス感染症の世界的な流行で、先の見通せない不安が広がっています。これまでも人類は有史以来、感染症との闘いを繰り返し、乗り越えてきました。今後どう立ち向かっていくべきか、参考にできることもありそうです。感染症との闘いの歴史を振り返ってみましょう。(永見将人)
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■紀元前にも痕跡
人類は紀元前から感染症と闘ってきました。エジプトのミイラからは、天然痘や結核に感染した痕跡が確認されています。
「世界的な大流行」を指すパンデミックとして有名なものに、中世の欧州で猛威を振るったペストや、1918~19年に世界で多くの犠牲者を出したスペイン風邪があります。
ペストは皮膚が黒くなって死亡するため「黒死病」として恐れられ、14世紀の大流行では欧州の人口の3分の1が死亡したとされます。現在のクロアチアのドブロブニクでは、感染地域からの旅行者を40日間隔離。「40」を意味する言葉が検疫の英語quarantine(クォランティン)の語源となりました。
誤った情報による迫害もありました。流行の原因とされたユダヤ人が焼き殺されたり絞首刑に処されたりし、多数の人が避難したロシア西部やポーランドに大きな居留地ができました。
スペイン風邪は当時の新型インフルエンザです。5億人が感染。死者は5千万人とも1億人ともいわれ、第1次世界大戦の終結を早めたとされます。スペインで発生したわけではなく、呼称にも大戦が関係しています。交戦国は情報が統制され、中立国スペインの感染状況がいち早く世界に発信されたことによります。
インフルエンザは20世紀以降、4度のパンデミックを起こしています。記憶に新しい2009年の新型インフルエンザは、11年からは季節性インフルエンザとして取り扱われています。
■天然痘は根絶
18世紀以降、ワクチンの開発や抗生物質の発見により、感染症の予防・治療法が飛躍的に進歩しました。
天然痘は「20世紀だけで3億人が死亡した」と世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が述べているほどの脅威でしたが、ワクチンの普及により、1980年にWHOが根絶を宣言しました。
ただ、人類がこれまでに根絶できた感染症は天然痘だけです。
1950年まで日本の死因のトップで「国民病」とも呼ばれた結核は、抗生物質(抗菌薬)やBCGワクチンの普及で死者が激減しましたが、今でも日本で年間1万5千人以上の患者が発生し、約2千人が命を落としています。抗菌薬の効かない薬剤耐性菌の問題も出てきました。抗菌薬の使い過ぎなどによって生まれやすくなり、耐性菌による死者の世界的増加が指摘されています。
■次々に現れる「新型」
人に感染するコロナウイルスは、今回の新型で7種類目になります。4種類は日常的に感染する風邪のウイルス。風邪の10~15%(流行期は35%)はこれらが原因です。残り二つが、今世紀になってから現れた重症急性呼吸器症候群(SARS)と、中東呼吸器症候群(MERS)です。
ほかにも1976年のエボラ出血熱、81年のエイズなど、新たな感染症が次々に出現。環境破壊や地球温暖化の影響が指摘されています。
歴史的にみても感染症の根絶は容易ではありません。スペイン風邪は、第2波で致死率が10倍になりました。今回のウイルスも分かっていないことが多く、予断を許しません。ペスト流行時のように、差別や偏見も広がりやすくなります。教訓を生かし、腰を据えて闘っていく必要があります。
◇ ◇
【教えて!先生】
「ウイルス出現 温暖化も要因」長崎大熱帯医学研究所教授(国際保健学)山本太郎氏
グローバル化の中、飛行機などによる移動が増え、世界同時多発的にパンデミックが起きている点は、過去の感染症とはかなり違う特徴だ。
ウイルスの特性によるが、何波かの流行があった後に落ち着いてくる。風邪のように穏やかな症状のものとして続いていくことになるのではないか。ワクチンは重要だが、時間がかかる。1日100万人分を生産できたとして、地球人口の半分に行き届くのに4千日。時間をかけて集団免疫を獲得していく方法もある。
新しい感染症が近年増えてきた背景には、開発でヒトが野生動物の生態系に入ったこと、地球温暖化で野生動物の生息域が狭くなったことがある。野生動物の中で生きてきたウイルスが、生き残りをかけたかのように人間社会に広がっている。
生態系の多様性や野生動物の生存を確保することで、新たな感染症が発生する頻度は減らせる。そうしないと、われわれの社会の存続が危ういということが分かってきた。
次にどんな社会をつくるか想定することが重要だ。社会は大きく変化する。例えば、10年や20年という単位で進んでいたであろう情報技術革命が1、2年で進む。
グローバル化が進んだニューヨークなどの地域が今回、大きな影響を受けた。格差を広げないベーシックインカムのような考え方も含め、都市と地方のあり方やグローバル化をどうしていくか。ウイルスとの共生とは、パンデミックを社会でしなやかに受け止めていくことも含むのかもしれない。
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