15年前禁止の石綿、なぜ流通? アスベスト含有の珪藻土バスマット回収相次ぐ
2021/02/21 09:50
石綿鉱山で原石を運ぶトラック。ロシアや中国ではいまも産出が続いている=2010年、カナダ・ケベック州
吸水性と速乾性のある珪藻土(けいそうど)製のバスマットやコースターは身近な製品です。昨年来、基準を上回るアスベスト(石綿)の含有が相次いで見つかり、大手ホームセンターや家電量販店が大規模な回収を行っています。破損すれば飛散の恐れがあるからですが、そもそも石綿は発がん性があることから使用禁止されて15年になります。なぜいまだに出回っているのでしょう。目を凝らすと国際的な流通と日本の水際対策の課題が見えてきました。(加藤正文)
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■中皮腫、肺がんリスククボタショック転機
「ニトリとしてあってはならないことであり、回収に全力で対応してまいります」。記者会見でニトリの似鳥(にとり)昭雄会長は謝罪しました。各社の自主回収の点数は膨大で「うちにもある」と問い合わせた方も多かったことでしょう。
今回の問題は珪藻土ではなく石綿です。繊維状の鉱物の総称で耐熱性や断熱性など幅広い機能を備え、戦前から国策として使われてきました。髪の毛の5千分の1の微細な繊維で吸引すれば十数年から40年ほどの潜伏期間を経て中皮腫や肺がんなどのリスクがあります。重大な転機は2005年、兵庫県尼崎市のクボタ旧神崎工場内外で被害が発覚したクボタショックです。06年、製品の使用や輸入、販売などが禁止となりました。
■中国の工場で製造 検査されず国内へ
世界の生産・消費状況を見てみましょう。石綿は天然の鉱物資源で産出国はロシア、カザフスタン、中国などです。消費ではインドや中国、ロシアなどが目立ちます。経済成長の真っただ中の国々では規制は緩い傾向で重厚長大産業や建設業に使われています。中国は青石綿などは禁止ですが、白石綿が使われています。
ニトリやカインズなどの回収製品は中国製でした。ニトリによると石綿検査は行われず、同社の検査依頼も明確に行われていなかったといいます。なぜ混入したのでしょう。強度を増すためか固めるためか増量でしょうか。詳細は不明です。委託先や取引先とはいえ安全が確保できなかった責任は大きいと言わざるを得ません。
日本は労働安全衛生法で重量の0・1%を超える石綿を含む製品の輸入は禁止されています。水際の税関はなぜ見逃したのでしょうか。中国製品の輸入量は膨大です。国際物流の中で「石綿混入製品を即物的に現場で見抜くのは困難」(財務省)といいます。規制の緩い国から入ってくる産品にはリスクが伴います。「現地で混入したので分からない」という状況は許されません。輸入・販売業者に成分分析表を求め、公的機関がチェックするなど輸入から流通段階で実効性ある法規制が求められます。厚生労働省や財務省の連携は不可欠ですし、違反業者に罰則を科すぐらいの厳しさが要ります。
■破損すれば飛散恐れ 暴露の危険性今も
厚労省はバスマットやコースターについて通常は石綿が飛散する恐れはないが、破損した際に飛び散る恐れがあるといいます。破損した場合は袋に入れ、テープなどで閉じて、家庭ごみとして廃棄しないよう呼び掛けています。
アスベストはギリシャ語で「永遠」「不滅」を意味します。社会のあちこちに蓄積(ストック)され、生産、流通、消費、廃棄といった経済活動の全局面で被害を引き起こしています。まさに「複合型ストック災害」なのです。
過去の吸引が牙をむくだけでなく、私たちは今も暴露の危険性にさらされていることを今回の問題は示しています。
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製品回収に関する各社の問い合わせ先は次の通り。
ニトリ=フリーダイヤル0120・209993▽カインズ=0120・659337▽ヤマダHD=0570・078181▽イズミ=0120・664687