安倍氏銃撃検証/現場の対応力を強化せよ
2022/09/02 06:00
安倍晋三元首相が7月、奈良市内で街頭演説中に銃撃され死亡した事件を巡り、警察庁は警護の検証結果と体制の見直しに関する報告書を公表した。計画段階と現場指揮の双方に不備があったと断じ、適切に対応していれば事件を防げた可能性が高いと指摘した。再発防止策として、都道府県の警察任せにしてきた警護計画の事前審査など、警察庁の関与を強化する方針を示した。
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元首相への銃撃を防げず、命を奪われるという事態の重大さを踏まえれば、警察庁の中村格(いたる)長官と奈良県警の鬼塚友章本部長が辞任したのは当然だ。全国の警察は反省と教訓を共有し、二度と同様の失態を繰り返してはならない。
報告書によると、演説会場の後方は多数の車両や歩行者が通り、警護上のリスクがあった。だが奈良県警の警護計画は安易に前例を踏襲し、後方の危険性を見落としていた。
また、後方の警護を担う警察官が前方への警戒に移動した際、情報は共有されず、代替要員の配置もなかった。このため容疑者の接近に誰も気付かず、銃撃を許した。元首相に致命傷を与えたのは2発目の発砲だが、1発目から3秒足らずで防御は困難だったと結論付けた。
何より重要なのは再発防止だ。報告書は、基本的事項を定める「警護要則」を抜本的に見直し、都道府県警による警護計画の策定に警察庁が関与を強める対策を掲げた。
要人警護について、警察庁の責任を明確にした点は評価できる。ただ国政選挙などでは、警察庁は短期間で相当数の警護計画の審査を求められることになる。警護対象者の日程が急に変更されるなど、計画を十分チェックできなかったり、計画通りに実施できなかったりすれば、現場に混乱を招きかねない。
的確な判断ができるよう、現場の担当者の能力向上を図ることが不可欠だ。警察庁は、研修の拡充など専門人材の育成とともに、資機材の支援も進めてほしい。各地の警察も訓練などでノウハウを共有し、警護力の底上げを図りたい。
容疑者はインターネット上の情報から銃や火薬を自作したとされる。3Dプリンターなどで誰でも作れる時代だ。容疑者のようにテロ組織などに属さない「ローンウルフ(一匹おおかみ)」の行動を把握するのは難しい。新しいタイプの脅威にどう対処するかも重要な課題となる。
一方で、政治家と有権者との距離を遠ざけるような過剰な警備にならないよう、留意すべきだ。そのためには政党や警護対象者との緊密な連携が欠かせない。失敗を直視し、現場の対応力を高めていくことで信頼の回復につなげねばならない。