<リカイってなに?>当事者が語るLGBT「ダム決壊したように生きやすくなった」 浅利圭一郎さん(下)
2021/12/31 05:30
LGBTダイバーシティセミナーの様子=札幌市内
多様な性への理解をテーマに、神戸新聞社は当事者の方々の思いやエピソードのほか、有識者のご意見を届けていきます。カミングアウトしたフリー記者の浅利圭一郎さんが、性的マイノリティーへの差別をなくすための講演活動をするようになった経緯や思いを寄稿してくれました。(神戸新聞阪神総局)
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2015年春、札幌市にある「井上税務会計事務所」で付き合いのある担当者から相談を受けました。
「LGBTとダイバーシティ(多様性)を広く周知する講座をシリーズ化したい。ぜひ参加してほしい」
経営者や一般の人に向けて無料のセミナーを開き、性的マイノリティーを差別しない「フレンドリー宣言」をする企業や団体を広げていこうという試みです。私は、当事者である伝え手として講師のメンバーに誘ってもらいました。
その担当者には以前からカミングアウトをしていて、それがきっかけになりました。ただ、共通の知人で、私と旧知の仲だった同年代の弁護士もメンバーに誘われたのです。私は、彼に言えていませんでした。
私は講師となる初回の壇上で、公に向けて当事者であることを明かすと決めていました。そうである以上、これから共に活動をする彼には前もって自分の口で告げないといけません。
おびえのような思いもあり、意を決して伝えると、最初の言葉が「水くさいなぁ」と。そして「自分も打ち明けにくいものを与えていたかもしれない」と言ってくれました。
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その頃、性的指向の問題とは別に、大きな出来事に見舞われていました。
若い頃からゲイのコミュニティにいた同年代の知人が事故死し、お世話になったバーのマスターが病死、さらに叔父が自死…と、身近な人々が立て続けに亡くなりました。
同年代の知人は若い頃からゲイとして自由に振る舞っているように見えてうらやましく思っていました。心を開いて受け入れてくれるマスターや叔父の存在は心底、心強かった。なのに、私はといえば、今もくずぶりながら生きている。ついに、自分を偽ることの限界が見えました。
「皆さんの身近にいる当事者」という立ち位置で、日々のリアルな実情を包み隠さずに語ってやろう。
そんな思いで始めたLGBTセミナーシリーズは地元メディアにも取り上げられ、企業や団体からの依頼も受けて現在までに講座を40回ほどこなしています。
つい6年前まで、あれほどふさぎ込んでいた自分が、こうした巡り合わせを得たことで格段に生きやすくなった実感を得ています。ダムが決壊したように、生きやすくなりました。
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LGBTQといっても、性的指向が少数派だというだけで、それ以外の面では多数派に属することもありますし、同じセクシュアリティでも、その他の感覚や考え方は当然、それぞれに違います。
「多様性」と言葉で発するのは簡単ですが「自分の『普通』が他人と同じでない」ということを、呼吸をするように受け入れるのは本当に難しいと感じます。
それでも、職場や学校、家族や友人、知人に当事者がいると知れば「自分ごと」として考えられるのではないか。そんな思いで、求められる限り、自分のありのままを伝えていきたいと思っています。(寄稿)
【あさり・けいいちろう】記者・編集者「ハーモニクス」代表。1975年、札幌市生まれ。法政大学文学部卒業後、神戸新聞社販売局企画開発部や雑誌編集者、十勝毎日新聞社札幌常駐記者を経て2020年から現職。著書に「決めごとのきまりゴト~1人1票からはじめる民主主義~」。