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浅利圭一郎さん
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浅利圭一郎さん

 兵庫県尼崎市保健所に勤めていたバイセクシュアルの30代男性職員が、公務中のカミングアウトは控えるべきだと上司から指導され、組織に失望して依願退職した-。私たちは先日、そんなニュースを報じました。

 「LGBT」や「LGBTQ+」という言葉は、社会にどんどん広がっています。それでも性的マイノリティーの人々が性の指向や自認を当たり前に明かすことは、まだむずかしい。

 「多様な性を理解するって、どういうこと?」

 取材を進めながら、ずっと考えています。

 企画タイトルの「リカイ」は、理解するということを、読者の方々と少しでも解きほぐしたくて、漢字を外してみました。

 当事者の方々の思いやエピソードのほか、有識者のご意見を届けながら、読者の方々と一緒に考えていきたいと思います。(神戸新聞阪神総局)

 私は2015年から、北海道の研修活動「LGBTダイバーシティセミナーシリーズ」に講師の一人として参加しています。性的マイノリティーの思いを企業経営者らに知ってもらい、差別をなくそうという狙いです。その中で私は、ゲイの当事者として大勢の人の前で話すことを決めました。

 今回発覚した尼崎市の問題について、男性職員に対する上司や組織の対応には大きく二つの違和感を持ちました。

 一つ目は、無知や無理解から来た市民団体からの「苦情」に対して、何の理解を促す働きかけもせずに屈してしまったことです。

 外からのクレームを十分に吟味せず、反射的に謝罪して収めようとしたのかもしれず、公務員や役所にありがちな「ことなかれ主義」も見え隠れします。ただ、こうした対応は民間企業でもあり得るでしょう。

 私も6年前までは自身の性的指向をほとんど明かさない「クローゼット」でした。尼崎市の男性職員は、市民との間でセンシティブともいえる会話に追い込まれた末に、バイセクシュアルを打ち明けたと報じられています。

 私もこの男性と同じく、自身の性的指向を明らかにしないと引っ込みのつかないような会話には、職場をはじめ、いくつかの場で遭遇してきました。

 その場をなんとかしてやり過ごそうとしますが、相手がしつこい、あるいは悪意をもって向かってきた場合、一体どうすればよいのでしょうか。

   ◇   ◇

 二つ目は、やはり「セクシュアリティーは多様である」ことへの理解不足です。

 尼崎市の上司は男性職員に「私的な発言は控えるべき」と指導したようです。

 しかし、職員が仮にLGBTQといった性的マイノリティーではなく、多数派である「異性愛者」だった場合、そして市民への返答がごく一般的な「ウチの奥さんは、子どもは…」という内容だった場合、上司は市民団体から不快だという趣旨のクレームを受けて同じ指導をしたのでしょうか。

 異性愛者は多数派にすぎません。職員の性的指向も人それぞれです。その理解があれば、偏見まじりの苦情を、そのまま受け入れてしまう対応にはならなかったのではないでしょうか。

 性的指向をカミングアウトせざるを得ないところに追い込まれ、上司や組織の理解不足で絶望の淵に立たされる。私も同じ状況になれば「こんな職場にはいられないな」と思うでしょう。

 今回のようなケースは日々あちこちで起きているかもしれません。しかし、性は多様であることを伝え「知ること」で防げることが多くあると思っています。

 私自身の経験から、お伝えしたいと思います。(寄稿)

【あさり・けいいちろう】記者・編集者「ハーモニクス」代表。1975年、札幌市生まれ。法政大学文学部卒業後、神戸新聞社販売局企画開発部や雑誌編集者、十勝毎日新聞社札幌常駐記者を経て2020年から現職。著書に「決めごとのきまりゴト~1人1票からはじめる民主主義~」。

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