さらば謎の「赤い球体」 尼崎南署分庁舎解体で撤去へ 発案者不明、込められた願いは…
2022/03/10 05:30
交差点を見渡すように立つ「交通安全祈念塔」=尼崎市浜田町4
宇宙船? それともガチャガチャの巨大カプセル? 通りすぎる人々の首をかしげさせてきた兵庫県警尼崎南署西分庁舎(旧尼崎西署)の「赤い球体」が、今年中に始まる庁舎解体に伴って撤去されることになった。斬新なデザインはイベントにも使われて人気だっただけに、市民から惜しむ声も。地元の剣道クラブが稽古をしてきた4階の道場もなくなり、いずれも半世紀を経て役目を終える。(浮田志保、竹本拓也)
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球体の名称は「交通安全祈念塔」(直径2・7メートル、高さ12メートル)。1974年に交通安全協会が設立20年を祝って建てた。発案者は不明だが、球体には事故ゼロ(0)への願いが込められているという。
尼崎南交通安全協会事務局長の稲田さとみさん(56)によると、主に活躍するのは交通安全キャンペーンのときだ。中に入るとマイクや放送設備があり、窓から国道2号交差点を見渡しながら交通安全を呼び掛けたり、マナー順守を促すテープを流したりする。
地元でも存在は有名で、稲田さんが赤い球体になってイベントに出ると「知ってる!」「何あれ?」とアピール効果は抜群だった。「これまで交通安全を見守ってくれた。なくなるのはさみしいが、事故ゼロの精神は受け継ぐ」と誓った。
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一方、道場は地元の剣道クラブ「尼西水明クラブ」が72年から使ってきた。2月には小中学生やOB約50人が慣れ親しんだ木の板を踏みしめたり、黙想したりして別れを告げた。
クラブ創設者の一人で永代師範だった故・菅耕生さんの妻・小夜子さんも参加。耕生さんは13年前にがんで亡くなるまで車いすで通って指導を続けたという。
小夜子さんは遺影をそばにして「ここがみんなの心に残るものとなってくれたなら、主人も喜ぶと思う」と涙ながらに語った。
クラブは今後、近くの小中学校や体育館を使う。主将で浜田小6年の男子児童(12)は「先輩との稽古の思い出がなくなることはない。これからも思いを引き継ぎたい」と話した。
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尼崎西署は2006年の統合で南署の西分庁舎となり、19年秋から本庁舎の建て替え工事に伴って南署員が使っている。今年中には新庁舎への引っ越しが終わり、西分庁舎は解体される予定だ。
土地は市が所有しており、市公有財産課は今後の活用について「公共施設の建て替え先に使うか、売却するか、貸すか。現段階で決まっていることはない」としている。