全国ワースト10位の3万7千戸 尼崎市の空き家、増加に歯止めへ まちの活力アップ課題

2022/11/08 05:30

尼崎市が撤去した空き家の一つ(市提供)

 兵庫県尼崎市で空き家は3万7千戸を超え、全国の自治体で10番目に多くなっている。無人の民家が犯罪の温床となる事案は全国で後を絶たず、市内でもたびたび不審火が発生。倒壊の危険がある物件も少なくない。市は2015年から全国に先駆けた対策を繰り出してようやく空き家の増加に歯止めをかけたが、今後、解消への好循環をつくり出せるかどうかが課題となっている。(村上貴浩) 関連ニュース 兵庫県、空き家11万戸有効活用へ 「特区」設けカフェなどへの用途変更を迅速化 全国初の条例制定方針 「空き家」大変身!に最大500万円 建築家が設計、デザイン重視の改修を支援 神戸市 自治体悩ます「空き家問題」 公金での解体には慎重「モラルハザード招く」


■連続変死事件でも
 トタン壁は赤黒くさび、朽ちた木枠の扉は開けられそうにない。別の民家の土壁には無数の亀裂が走り、ベランダにはごみが山積みになっている。
 尼崎市内の住宅街を歩くと、そんな空き家が点在する。12年に発覚した尼崎連続変死事件では、約10年間無人となっていた民家から男女3人の遺体が見つかり、防犯上の問題がクローズアップされた。
 総務省は5年に1度、空き家状況を調べており、直近の18年調査で尼崎市は前回から1330戸減ったとはいえ、3万7280戸。市が「かなり危険」と判断しているのは238戸となっている。

■独自に条例施行も
 「原因には戦後の急激な工業都市化がある」と市の担当者が語る。労働者が流入して質の低い「受け皿住宅」が急ピッチで建ったが、産業構造の変化と阪神・淡路大震災で人口が流出する中、建物は取り残された。
 15年に国は「空家等対策特別措置法」を施行し、市区町村は倒壊などの恐れがある物件を「特定空家」に指定すれば指導や勧告ができ、命令に従わないと強制撤去もできるようになった。
 これに合わせて市は「一部で居住している長屋」など、国の適用外物件も対象とすることができる条例を独自に施行。この7年間で約千戸を指定し、そのうち約7割は解体などで解決したという。

■三つの視点を軸に
 ただ、危険物件の解消へ、最大の課題は「持ち主の特定」だ。所有者が死亡して権利関係が複雑になり、中には相続していることを知らない人もいる。
 市内には30人を超える相続人がいる物件もあり、その特定には100人以上の戸籍を調べる必要がある。判明後に文書で通達しても詐欺と疑われるなどして連絡が取れないケースは多く、年数が経過している危険な空き家ほど解決が難しいのが現状という。
 「危険な物件をなくす」「使える場合は活用を促す」「空き家を生ませない」。市は三つの視点を軸に多彩な対策を繰り出す=表。
 「施策面では全国トップクラスと自負している」と担当者。一方で、人口減社会に突入する中で空き家を減らすには、まちの活力を高めるしかないとみる。
 「小学校の廃校跡地を市が整備すると周辺の空き家が次々に解消した例もあるという。人が増え、新しい家ができ、道も緑地も整備されたら自然に減っていく。まちに魅力があれば、空き家はできないんです」

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