公害対策で整備された歴史に一区切り…老朽化進む公園どう生かす? 尼崎市、住民との模索に活路
2022/11/10 05:30
多くの工場からわき出る煙で覆われる尼崎工業地帯=1970年10月30日
兵庫県尼崎市の公園管理が時代の分岐点に差しかかっている。公園や緑地は全国有数の500カ所を超え、豊かな緑は民間調査の「住み心地ランキング」でも評価されているが、その整備は公害対策の歴史と共にある。それが時を経て今、一斉に老朽化の波にさらされており、市は新たな管理手法の模索を始めている。
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1960~70年代、南部の3分の2が大気汚染の公害地域に指定され、累計1万1208人が公害病と認定された。ばい煙で空は曇り、川はどす黒くよどんでいた。市は事業者への規制を強めつつ、積極的に押し進めたのが、緑地と公園の整備だった。
南西部の「元浜緑地」は排ガスに対応する全国初の「大気汚染対策緑地」とし、同じく県も臨海部に「尼崎21世紀の森」を整備。今では共に休日は親子連れたちの姿であふれる。
2021年度の政府統計によると、市内の都市公園だけでも417カ所に上り、全国の1741市町村のうち53番目と上位に。22年度の「関西穴場だと思う駅ランキング」はトップ5に市内4駅が名を連ね、豊かな緑にも評価が集まった。
しかし、「近年は維持管理で手いっぱい」と市の担当者が打ち明ける。遊具が破損したり、伸びすぎた木の枝が民家に届いたりと、老朽化に伴う問題が一気に噴出。そこで市は修繕に追われつつ「住民らと一緒に公園を管理する」という新たな筋道を検討している。
現在、南西部の中学校跡地に計画している公園整備を巡っては、住民たちと意見交換を重ねて設備や利用ルールを考える。
「市が全ての公園を一元管理してルールを決めるのではなく、それぞれのまちに合った自由度の高い公園をつくってもらいたい」
また、市役所隣の橘公園(同市東七松町)では、もっと住民に親しんでもらおうと、指定管理者が多彩なイベントを企画。泥団子作りや、座れる場所探しを通じ、憩いの場をどう充実させるかに知恵を出しあう。
戦災の影響、災害の教訓、宅地開発の一環…と、自治体によって公園が多い理由はさまざまだ。尼崎市内では今年10月時点も公害病認定患者は1432人に上るが、公害問題の一定の区切りがついた今、市は緑をどう保ち、更新するかという新しい局面に立っている。(村上貴浩)