1本なんと700円 姫路でなぜ高級バナナ栽培?
2020/12/10 05:30
たわわに実ったバナナの様子を確認する福永農産の小井佳代社長=姫路市船津町
「1本700円もする姫路産の高級バナナ」が今年、大きな注目を集めた。朝食は決まってバナナを食べている記者にとっては、まさに高根の花。そもそも赤道近くの国が産地で、海を渡ってくるものだというイメージが強いだけに、一体いつから姫路はバナナが育つ“南国”になったのか。兵庫県内でも珍しいバナナ栽培に取り組む福永農産(兵庫県姫路市船津町)を訪ねた。(山本 晃)
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■高さ5メートル、室温25度のハウス
姫路市南部から播但連絡道路を船津ランプへ向かうと、左手に福永農産のビニールハウス群が広がる。バナナを栽培するハウスは高さが約5メートルもあり、ひときわ目立つ。社長の小井(こい)佳代さん(48)に案内してもらい、中に入ると、額が汗ばむほどに暖かい。それもそのはず。室温は25度もあった。
約15アールに植えられた約200株は、高さが人の背丈を超すものもある。大きな葉を茂らせるバナナは多年草。葉の間からは、青々とした100~150個ほどの実を付けたバナナがのぞく。よく見ると、房の部分が下で、実が上向きに生えている。
また、小豆色の巨大な花のようなものも苗からぶら下がっていた。小井社長によると、これは「苞(ほう)」という。花びらに見える部分の内側に、バナナの花が隠されており、成長して実になるそうだ。
同社が栽培するのは台湾原産の「グロスミッチェル種」。50年ほど前まで、日本でも多く出回っていたが、疫病に弱い難点があり、次第に姿を消したという。
数年前、岡山市の農業法人「D&Tファーム」が改良に成功した。果肉が黄色に近く、甘くてもっちりとした食感で「皮まで食べられる」と表現された。
「実はどのバナナでも、食べようと思えば皮まで食べられる」と小井社長。しかし、海外産の中には、日本で使えない農薬を吹きかけている場合もあるため、安全面を考えれば、お勧めしないそうだ。福永農産のバナナは安全性に心配は要らないが、特段、皮に味があるわけではないという。
福永農産が育てたバナナは、地元で青果卸を営む丸共商店がほぼ全量を購入するが、出荷は不定期で、収穫量もまちまち。とても希少な存在になっている。
倉庫で黄色くなるまで追熟させた後、「姫バナナ」の名で姫路のスーパーなどに並ぶ。また、市内のバナナジュース専門店が今夏から、福永農産のバナナを使った商品を1杯千円で限定販売を始めるなど、姫路産バナナの知名度が高まっている。
◇ ◇
■父の夢 試行錯誤で実現
そもそも、なぜ福永農産でバナナの栽培を始めたのか。きっかけは小井社長の父で、会長の福永英世さん(77)が数年前「バナナを育てたい」と夢を語ったことだった。
「最初聞いた時は冗談かと思いました」と小井社長。水田にハウスを建て、2018年10月、初めてバナナの苗を植えた。
栽培を始めると、困難の連続だった。最初の壁は、苗が全く育たなかったこと。水やりの頻度を増やすことで解決したが、今度は、成長が進みすぎて実が「爆発」してしまった。
収穫のタイミングも試行錯誤を続けた。
バナナは黄色くなるまで育てると苦味が出てしまう。そのため緑色のうちに収穫する必要があるが、時期を見極めるのは難しかった。
また、もともと水田だったためか、土壌の水持ちがよく、ゲリラ豪雨の際にはハウス内が一部浸水したこともあった。朝晩の冷え込みが厳しい船津ではハウスの暖房費もかさみ、イチゴ栽培の10倍もかかった。
ようやく出荷にこぎ着けたのは今年1月。「1本700円」で販売される高級バナナは、こうした幾多の苦労を乗り越え、消費者の口に届けられた。
「姫路産バナナ」の反響は大きかった。新聞やテレビで取り上げられると、問い合わせの電話が相次いだ。農家から「うちでも育てたい」と相談を受けることもあった。
現在、バナナ栽培は小井社長の夫靖彦さん(49)と長男尚樹さん(22)が担当する。尚樹さんは「水や肥料、温度は今も試行錯誤。まずは収穫率を上げたい」。小井社長も「反響の一方で、とても手がかかるのが実情」と話し、目下の目標は「安定して出荷すること」だとする。