キハでGO!~東北から北条鉄道へ<2>車両を呼んだ男 希少価値に利点見いだす
2022/05/03 05:30
キハ40形の車体をモップで洗う坂江大宗さん=北条鉄道北条町駅
「キハを呼んだ男」と呼ばれている。北条鉄道(兵庫県加西市)の運転・検修係、坂江大宗(ひろたか)さん(25)は、東京のJR東日本本社に電話をかけて交渉のきっかけをつくった。
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北条鉄道ではキハ導入前まで、1999年製造の「フラワ1号」など3台の車両があった。1両が4年に1度の定期検査に入ると予備車がなくなる。3台の車両の走行年数は長く、故障の不安もあった。増車は、社員たちの悲願だった。2020年に法華口駅の行き違い走行が可能になり、朝夕の増便も決まり、早急に新車両が必要になった。
新造すると2億円以上。全国の鉄道会社の中から、「フラワ号」と似た中古車両を捜した。候補の私鉄や第3セクターにメールを送りJR東日本から「連絡をください」と返事が来た。条件を伝えると、「秋田のキハなら渡せる。エンジンを新しく載せ替え、前後部に運転台があり、ワンマン運転できるのは、キハ40形しかない」と言われた。
20年11月27日、秋田の車両センターで初めてキハ40形を見た。構造を確認し「これなら大丈夫」。同行した上司とうなずいた。
◇
北条鉄道は赤字路線だ。加西市の補助を受け、運営している。新車両購入を市に要望した。キハ40形の導入に、市職員の反応は芳しくなかった。「輸送費が高い」「40年も走っている車両がまだ使えるのか」「改修費が高くなるのでは」「修理の部品はあるのか」。
それでも坂江さんら同鉄道社員は粘った。「国鉄時代の最後に製造されたキハ40形の人気は高い。東日本では廃車が進み希少価値がある」と、集客面の利点も加えた。
21年4月、北条鉄道では、行き違い運行に加え、平日早朝に2両編成の運行が始まり、3両がフル稼働する状態になった。市も、新たな車両購入を決断し、輸送、改修費を含む2900万円の予算が下りた。
北条鉄道は、運転士8人が、運転後の車両点検、清掃も行う。カーシャンプーで車体を洗い、窓を拭いて、手すり、座席の消毒をする。運転台も念入りに布拭きをする。坂江さんも運転士と検修係を兼務する。自分が決めた車両なので、自分が一番詳しくないといけない。40年前の国鉄の教科書で、エンジンや変速機など、各部分の構造を学んでいる。
キハの車内は40年以上使われても清潔に保たれている。「このきれいさをキープしていかなあかん」。坂江さんは清掃のたびに思う。(敏蔭潤子)
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