光顕さんの人形ーリンパ腫と闘った僧侶【上】祈念

2022/09/23 05:30

「生死をさまよった経験が人形作りにつながっている」と話す鑑光顕さん=小野市浄谷町

■手に取った人がちょっとでも幸せに感じれば 関連ニュース 世知辛い世にほのぼの…植物の絵入り御朱印人気 小野・歓喜院、僧侶が月替わりで巧みに描写 まるで「極楽浄土」 背後から夕日浴び輝く阿弥陀三尊立像 国宝浄土寺 帰ってきたゆうちゃん 「絶望的、二つの病」抱えた少年、闘病の病院で医師に 未承認薬で奇跡の生還

 国宝「阿弥陀三尊立蔵」で知られる浄土寺(兵庫県小野市浄谷町)。鎌倉期の高僧重源が創建した古刹(こさつ)のそばに立つ寺院「塔頭(たっちゅう)」の一つ「歓喜院」で、おみくじ付きの人形が参拝者の人気を集めている。
 大きさは5~6センチ。仏さまの「阿弥陀」「菩薩(ぼさつ)」をかたどったものから、ネコやモグラなどの動物まで種類はさまざま。荘厳な寺院の雰囲気とはアンバランスな愛らしさが、口コミで評判を広げている。
 人形は歓喜院の副住職、鑑光顕(かがみこうけん)さん(40)の手作り。粘土をこねて原型を形作り、自ら筆を執ってアクリル塗料で色を重ねる。手描きの人形は一つ一つ表情が異なり、どこかユーモラス。丸みの帯びた体形でおみくじを背負い、参拝者を出迎える。
 光顕さんは、3年ほど前に寺で人形制作を始めた。
 「作るのは大変です。でも、人形を手に取った人がちょっとでも幸せに感じたり、楽しくなってくれればいいと思って作るようになりました」
 10代の時に発症した「悪性リンパ腫」で、生死の境をさまよった光顕さん。今も麻痺が残る体で静かに語り始めた。

 光顕さんは代々、「歓喜院」の住職を務める鑑家の長男として生まれた。体を動かすことが好きな子どもだった。中学では剣道部の主将を務め、仲間と汗を流した。
 高校は宗教科がある高野山高校(和歌山県)に進学。僧侶を目指して全国から集まった寺の子弟と共に、勉学に励む充実した毎日を送っていた。
 高校3年生の夏休みのこと。友人と連れ立って出掛けた際、自転車で転倒した。見た目にけがはなかったが、首を痛めたこともあり、念のため整形外科を受診した。外科的な診断を予想していた光顕さんに、医師は思わぬことを口にした。
 「首付近のリンパ節が腫れています。精密検査が必要です」
 整形外科医の言葉を受け、三木市内の総合病院で精密検査を行った。結果は「悪性腫瘍」。担当医は無情にもこう告げた。
 「今すぐ入院治療です」
     ◆
 白血球の一種のリンパ球ががん細胞になり、最悪の場合は死に至る「リンパ腫」。重い病を乗り越えた僧侶・鑑光顕さんの壮絶な闘病生活をつづる。
(杉山雅崇)

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