「アウトドアも障害も、人生も一緒」障害者、子ども、大人がキャンプに挑戦

2021/10/26 05:30

みんなで大はしゃぎ。マリンスポーツを堪能した。いかだをこぐのは代表の木戸俊介さん=神戸市灘区六甲山町

 「障がいがあっても1人でできるもん!」。ソロキャンプの募集要項にあった一文に、心が躍った。大学時代に重度障害者の介助アルバイトを経験した記者にとって、「やってみたい」を行動に移すことに障害の有無は関係ないと感じるからだ。NPO法人「須磨ユニバーサルビーチプロジェクト」が企画した、そんな1泊2日のキャンプに密着した。(丸山桃奈) 関連ニュース アウトドアに強い味方!電源・ガス不要の「ビールサーバー」を試してみた 200種以上のクラフトビール楽しめるサービスも 海一望の絶景キャンプを 野外活動センターにドームテント新設 赤穂 ホテルの部屋で本格キャンプ? プラネタリウムも 神戸で新サービス【動画】


 同団体は2017年に誕生。須磨海岸で車いすでも海を楽しめるようにしたり、畑で田植えに挑戦したり…。障害者の「できない」を「できた!」に変えるサポートをしている。
□非常食の調理体験
 今回の催しは、障害者が主役ではない。障害者と健常者、大人と子ども。皆で一緒にキャンプに挑戦する。10月初旬の午前11時半、六甲自然の家(神戸市灘区六甲山町)に、年齢もさまざまな子ども約10人、大人約20人、障害者は3人が集まった。まずは和気あいあいとテントを設営。持ち寄った非常食を食べた。
 必要最低限の装備で生活するキャンプと災害時の避難所生活を重ね、防災への意識を高めてもらう企画。おでんの缶詰や水で食べられる米などを味わった。「(災害時には)お箸もいるね」などと気付いた人も。
□テントを設営
 午後2時ごろ、テントを立てた。つまみを引っ張るだけで、車いすに座ったままでも1人で設営可能なものもある。同法人の内藤夕貴さん(31)は淡々と取り組み、約10分で作業終了。対して苦戦したのは、代表の木戸俊介さん(35)。万策尽きて内藤さんの手を借りる。「1人で」ではなかったが、「障害者同士やからセーフ」と笑い合った。
 30分後、後のプログラムで使う竹製いかだや米を炊く竹筒を作り始めた。のこぎりで切るところから始め、作業を進めるうち気付けば薄暮に。作業を分担してカレーの準備に掛かる。肉を切り、竹筒に米を詰める。車いすに乗った池田健人(たけと)さん(22)は父と一緒に包丁を握り、野菜を切った。
 午後7時ごろ、ナイトハイクが始まった。目指すは、神戸の街を一望できる摩耶山・掬星台。ライトで山道を照らしながら、列になって歩くこと約20分。輝く夜景が参加者の目前に広がった。帰り道には「何も特別なことをしなくても、一緒に夜道を歩くだけで楽しいよね」との声が上がる。
□水上散歩も
 テントの中で寝袋に入って就寝。翌朝午前6時半に起きると、好みの具材を挟んだホットサンドをぺろりと平らげた。湖のカヌー場に移り、長さ約6メートルあるボードに立ち、パドルをこいで水面を進む「スタンドアップパドルボード『SUP』(サップ)」に挑戦した。ライフジャケットを着て8人程度でボードに相乗りし、「行ってきまーす!」。ゆっくりとパドルを動かすと、見る見るうちに姿が小さくなった。
 木戸さんも水陸両用の車いすに乗り、手作りのいかだで湖に繰り出した。バランスを崩してひっくり返っても何のその。「ハッハー!」。ずぶぬれになった木戸さんの笑い声が響く。「『障害者がアウトドアをするのは迷惑が掛かる』と敬遠する人が多いが、ハードルは高い方が面白い。アウトドアも障害も、人生も一緒」と木戸さん。1人用のSUPに乗った山下弥生さん(52)が大きなSUPに乗った池田さんに声を掛けた。「健人、いい顔してるよ!」。
□満面の笑み
 全日程を終え、手際よく会場を片付けた参加者。みんなの表情は、遊び疲れた満足感でいっぱいだ。池田さんに「楽しかったですか?」と聞いてみると、満面の笑みを返してくれた。障害者だからできなかったことなんて、何もない。参加前に思い描いた通りの光景が、目の前にあった。

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