コロナ禍で親の収入減、学びの機会失われ…「子どもの教育格差なくせ」無料のオンライン塾始動
2022/05/14 18:00
「勉強が好きになれる塾にしたい」と話す濱田颯太代表=三田市役所
子どもの教育格差をなくそうと、全国の高校生や大学生でつくる団体「Get CHANCE(ゲット チャンス)」が無料で受けられるオンラインの塾や講座を開いている。立ち上げたのは兵庫県三田市の三田学園高校3年の濱田颯太さん(17)=神戸市北区。自身の経験を含め、新型コロナウイルス禍で社会の課題に気付いた。塾は現在、中学生が対象で、今後小学生や高校生にも広げる予定だ。(喜田美咲)
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団体は昨年8月に結成され、今春本格始動した。全国の高校生と大学生の33人が所属。オンライン塾「GET」とオンライン講演会「CHANCE」を運営する。
塾では毎週1回、募集した教育ボランティアから国語、数学、英語、理科、社会-の指導が受けられる。講演はキャリア教育を進めるため、多彩な職業の人に登壇してもらう。これまで高校生向けの起業体験プログラムを手掛けるNPO法人の人らをゲストに招いた。
濱田さんが「学びの機会を自由に選べない人がいる」と感じたのは2年前。高校生になった直後だった。コロナが急速に拡大し、父が営む居酒屋の収入が減っていた当時、大学受験に向けて塾に通いたいと思ったが、言い出せなかった。「そんな気持ちは初めてだった。でも、コロナ以前からそういう思いをしている人はいたんだと気付かされた」
親は懸命に工面して私立校に通わせてくれている。周囲には、私立に行く代わりに塾へは行かない約束を親としている家庭もある。教育関係の仕事に興味があったこともあり、放課後、自由に受けられる学びの場をつくれないかと考えるようになった。
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昨年4月、学校内で「リーダー養成塾」の募集ポスターを目にした。世界で活躍する講師から高校生が日本や近隣諸国の歴史や文化を教わり、議論を通して現状の課題や解決策を探るプログラムだった。コロナでさまざまな行事が制限され、修学旅行も中止や内容の変更が取りざたされていた時期。何よりも「夏休みに2週間合宿できる」という言葉に引かれ、すぐに参加を決めた。
貧困や環境など世界の問題解決に取り組む企業の社員や、自治体の長らから話を聞く。全国から集まった生徒同士で社会問題を議論する。参加した生徒の中には学生団体の代表を務めたり、起業したりしている人もいた。多くの刺激を受けた。「まだ高校生だから、とためらう必要はない」。価値観が変わった。
プログラム中にも議題に上がった教育格差を調べると、経済状態や地域格差、親の方針などひとくくりにできない課題があった。全ての人を対象にできるわけではないが、オンラインを活用すれば「家賃が発生せず運営コストを抑えられ、全国とつながれる無料の塾が開けるのでは」と考えた。リーダー塾の修了から1週間後、LINEグループで参加生徒に協力を呼び掛けると、28人が賛同した。
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塾のカリキュラムや指導者の要項を決めるうち、オンライン会議アプリを使うにもチラシを刷るにも資金が必要になった。昨年末から、住まいの近い生徒同士で集まり、これまで全国3カ所の街頭で寄付を呼び掛けた。インターネット上でクラウドファンディング(CF)も始めた。
ボランティアの募集サイトで自分たちの活動を紹介すると、教育学部の学生や教員免許を持つ主婦らが次々に集まった。
メンバーが通う学校で、使わなくなった参考書や児童書を集め、自治体を通して子ども食堂などに寄付する取り組みも始めた。
濱田さん自身は代表として、オンラインで毎月1回開かれる全体会議と毎週の担当部署ごとの会議を進める。所属する生徒会やハンドボール部での活動、受験勉強との両立に「団体を立ち上げた当初はちょっと成績が下がって焦った。今は立て直しています」と苦笑い。
活動を通して「全ての格差を解消することはできないと分かった。だからこそ今の自分たちにできる役割を見つけられた」と言う。全国にできた仲間のおかげで視野が広がり、新たな思いも生まれた。「ここでの学びで受験に臨めたり、学校に通いにくい人も参加しようと思えたり、いろいろな人の居場所になれたらうれしい」
CFは21日まで。質問や受講の申し込みはメール(getchance.renraku@gmail.com)のほかインスタグラムやホームページからも受け付けている。