旧有馬郡ゆかりの能、「鼓の瀧」300年ぶり復活へ 三田拠点の普及活動団体、CFで資金提供呼びかけ
2022/09/02 05:30
朝原広基さん=三田市桑原
兵庫県三田市を拠点に能楽の普及活動に取り組む「能楽と郷土を知る会」が、同市を含む旧有馬郡ゆかりの能「鼓の瀧」を上演するため、クラウドファンディング(CF)を実施している。上演の記録は江戸時代中期で途絶えており、実現すれば約300年ぶりに復活することになる。11月に市内で演じることを目標にしている。(小森有喜)
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同会は、子ども向けの能楽教室を開くなど文化の浸透を目指して活動している。2年前にも、三田市桑原の欣勝寺に伝わる民話を題材にした創作狂言「くわばら」を上演するためのCFを実施。集まった資金でプロの能楽師による上演会を開き、演目は教室の子どもたちにも受け継がれている。
「室町時代から現代までに作られた曲は3千を超えるが、現在演じられている演目は200程度」と、能楽と郷土を知る会代表の朝原広基さん(40)=伊丹市。現在は上演されていない演目の中から三田や周辺地域にゆかりのあるものを探し、見つけたのが鼓の瀧だった。
鼓の瀧は、神戸市北区有馬町に今も残る鼓ケ滝が舞台。世阿弥の芸談をまとめた書物「申楽(さるがく)談儀」に記述がある。世阿弥自身が作り、謡(うた)っていたという学説もある。江戸時代中期の正徳年間(1711~16年)に何度か上演の記録があるがそれ以降は途切れている。有馬山の夜桜の美しさを謡う箇所だけは「乱曲(らんぎょく)」と呼ばれる謡物として現代まで継承されており、「演目としての質の高さは伝統的に評価されてきたと言える」と朝原さんは太鼓判を押す。
今後、能楽師や研究者らと協力し、現存する資料を参考にして謡本(台本)の作成を行うという。資料が存在しない部分もあり、一部は伝統を踏まえた上で創作する必要がある。CFの資金はこうした研究費や人件・会場費などに活用する。
CFサイトでの目標金額は150万円で、今月8日まで募集している。金額到達の可否にかかわらず、11月22日に三田市総合文化センター「郷の音ホール」(天神1)大ホールで能楽師が初演する予定。その後も同会が上演していく。CFサイト「レディーフォー」での寄付は5千円から。金額に応じ、当日のチケットや謡本などのリターンがある。
朝原さんは「物語の地で演目を楽しんでもらうことで、地域の歴史や能楽に関心を持つきっかけをつくりたい」と話している。CF以外に口座振り込みによる支援も可能。
【鼓の瀧のあらすじ(新たな創作部分を含む)】神社への参拝の道中、桜の美しさに誘われた公家が摂津国の「鼓の山」に迷い込んだ。すると老人が現れた。滝へ案内し、「音に聞く鼓の瀧をうち見ればただ山川のなるにぞありける」(有名な鼓の滝を見上げると山や川の中に音が鳴り響いている)という古い和歌を紹介。歌に感心し、風流を理解する公家を気に入った老人は、より美しい景色を公家に見せようと、滝に祭られる神の姿に変身。月の光が夜桜を照らす中、見事な舞を披露し、公家を魅了する。