僕ら「カニカニブラザーズ」 調査歴7年、学会も太鼓判のカニ究めた中学生兄弟

2022/02/17 14:30

山積みのカキ殻をかき分け、カニを探す大角一尋さん(左)と涼斗さん=相生市相生

 カニに魅せられ、研究に打ち込む兄弟が兵庫県相生市にいる。自らを「カニカニブラザーズ」と名乗る双葉中2年の大角一尋(おおすみひとひろ)さん(14)と1年の涼斗さん(13)。7年前から相生湾で生態調査を始め、見つけたカニは79種類に上る。うち23種類は兵庫県の絶滅危惧種で、3種類は県内初発見だった。学会で成果を発表したり、論文を執筆したりと、研究者顔負けの2人を取材した。(地道優樹) 関連ニュース 【写真】カキ殻に隠れていたカニ 「パパ、変わった虫がいた!」その正体は? 親子と記者合同の“自由研究” 身近な池で見つけた「しぜん、ふしぜん」 7歳児が環境問題の写真コンテストで全国2位


■養殖業者の船に乗り込み
 2月上旬、「カニカニブラザーズ」が調査に向かった先は、相生湾でカキを養殖する業者の船だった。乗り込むと、水揚げされたばかりのカキが山積み。「カキの殻は、カニなどいろいろな生き物のすみかなんです」と教えてくれた。
 実はカニも冬眠する。相生では海水温が低下すると、海底や磯に生息するカニたちが、養殖場のカキに集まる。身を隠し、冬を越すのに適しているそうだ。
 2人は、山積みのカキを慣れた手つきでかき分けていく。数分もしないうちに直径5センチほどの茶色いカニを見つけた。見るなり「ヨツハモドキですね」と一尋さん。洋ナシ形の甲羅が特徴で、相生湾ではおなじみの種類という。
 この業者の船は、県内で初発見となったルーケブカガニを見つけるなど、期待が膨らむ調査場所。兄弟は「いつか新種を見つけたい。僕らにとっては宝探しです」と目を輝かせた。
 2人が、カニに魅せられたのは2015年夏。兵庫県立大学准教授の故和田年史さんが講師を務める相生湾の干潟観察会に参加した。一尋さんは「一匹一匹、ハサミの形や甲羅の色が違う」。涼斗さんは「硬いゴツゴツがロボットみたい」。2人そろってカニに一目ぼれし、毎週のように湾内の磯や干潟に通うようになった。
 カニが干潟を歩いたり、目だけ出して周囲をうかがったりする様子を観察。夏場は海に潜って捕まえ、甲羅の大きさや巣穴の様子、見つけた場所などをノートに記録した。死んだふりをしたり、求愛のダンスを踊ったりする生態の面白さを伝えたくなり、自前の図鑑づくりを始めた。

■「学術的に極めて価値ある」
 調査を重ねた2人は、和田さんの勧めもあり、兵庫県立人と自然の博物館(三田市)でカニの魅力について講演した。17年秋には、日本甲殻類学会の大会で調査成果を発表。専門家たちも一目置くほどの知識や観察眼が高く評価され、「学術的に極めて価値がある」として特別奨励賞を受賞した。相生湾内のカニの分布や生態を2人で論文にまとめ、英語を交えて執筆したこともある。
 中学ではともに卓球部に所属し、将来の夢は研究者になることだ。
 涼斗さんは「いつか船に乗って沖合や深海のカニも見てみたい」。一尋さんも「さかなクンみたいに『かにクン』となって、カニの魅力を伝えられたら」とはにかんだ。

■成果まとめた200ページ超の図鑑を自作
 干潟のライオン、朱い彗星(あかいすいせい)、泥の忍者…。兄弟が調査成果をまとめた手製の図鑑には、写真や観察メモとともに、カニの特徴を表したキャッチフレーズが並ぶ。逃げ足の速さや凶暴さ、出合える確率なども独自の基準で5段階にランク付けしてあり、ページ数は200ページを超える労作。いつか出版するのが目標だ。
 兄弟を調査に駆り立てるカニの魅力について、2人は「人間らしさ」と口をそろえる。
 例えば雄のチゴガニは、目の周辺が繁殖期だけエメラルド色に変わり「イケメンになる」。ヤマトオサガニは雄と雌が互いの体に付いた泥を取り合い「熟年夫婦」のような空気感を漂わせるという。
 「利き手はあるか」「一番ビビりなのは」。2人は、観察をして疑問を持ち、実験で確かめることを繰り返してきた。その結果「カニだって好き嫌いがある」「敵に襲われるとハサミを切り離して逃げ、後で何度も脱皮して再生させる」など、カニの面白さを伝えるネタには事欠かない。
 一方で悩みもある。「甲羅をバキバキ割るのがかわいそうで、カニを食べられなくなった」と一尋さん。好き過ぎると弊害もあるようで…。

神戸新聞NEXTへ
神戸新聞NEXTへ