開幕豊岡物語「演劇のまち」へ(1)平田オリザさんの挑戦

2020/01/27 15:19

演劇祭について説明する平田オリザさん=豊岡市役所

 ♪恋人よ 僕は旅立つ 東へと向かう列車で/都会の絵の具に 染まらないで帰って 関連ニュース 神戸市で新たに32人感染、5人死亡 新型コロナ 「東急ハンズ三宮店」30年の歴史に幕 コロナ禍の大みそか、各地の様子 神戸で41人が感染 新型コロナ

 太田裕美が歌って1975年にヒットした「木綿のハンカチーフ」は、東京に出た男性と、故郷に残る女性の淡い恋をつづっている。作詞家松本隆(神戸市在住)の作詞。歌詞が進むにつれて2人に距離が生まれ、男性は「帰れない」と打ち明ける。
 兵庫県豊岡市は2018年の職員採用試験の課題に、郷愁を誘うこの歌を取り上げた。17年から取り入れている「ディスカッションドラマ(討論劇)」のグループワーク。東京と地方の関係性を歌に重ねた。
 「固定したイメージを払拭(ふっしょく)するところから地方創生、人口減少対策は始まると考えています」。あえて否定的、現実的に捉え、受験者が「Iターン戦略の担当者」として新しい歌詞を考えることを求めた。
 受験者は諮問委員会を設立し、メンバーを決めて会議のシナリオを作り上げていく。進行するのは日本を代表する劇作家平田オリザ(57)だ。
 15年度から市芸術文化参与を担い、19年9月には東京から同市へ移住。今年は平田が主宰する東京の劇団が同市に拠点を移し、劇場を開設する。
 昨年9月に市内で試行された「第0回豊岡演劇祭」では全国から演劇ファンが集まり、宿泊など観光業界への貢献も確認された。大手企業も注目。ICチップでの来場者管理▽キャッシュレスでの地域通貨利用▽未来の移動手段を探るためのデータ収集-など、先端技術を活用したスマートシティー構想へと発展している。
 平田が「5年でアジア最大、10年で世界有数の国際演劇祭に」と掲げる豊岡演劇祭が、今年は本格始動する。外から客を呼び込むイベントばかりではなく、市内の全小中学校で演劇的手法を用いた授業が行われていることも豊岡市の特徴。来年には国際観光芸術専門職大学(仮称)が開校する。
     ◇
 若年世代の人口回復のため、東京ではなく「世界」とつながることを掲げ、突き抜けた価値を求めてきた豊岡市。まちの基軸に演劇を据え、急速に「演劇のまち」へと進む。壮大な社会実験が始まっている。そこには、偶然の重なりがあった。=文中敬称略=
(石川 翠)

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