開幕豊岡物語「演劇のまち」へ(6)演劇用いた授業
2020/02/03 16:00
「転入生は外国から来たことにしてみよう」「じゃあ言葉はどうする?」-。せりふを考える子どもたちを平田オリザさんが見守る=中筋小
兵庫県豊岡市では、小学6年と中学3年で演劇的手法を用いた授業を受ける。2015年からモデル校5校で劇作家平田オリザ(57)が指導。その様子を録画した映像と指導資料をもとに、17年からは全38小中学校の担任教員らが行っている。
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ある日の中筋小学校(同市土渕)。多目的室では平田が見守る中、担任の沢野雅紀(49)の指導で6年生が対話劇「転入生がやってきた」を実践していた。教材は平田が考案した台本だ。
-教室に先生が転入生を連れてやって来る。
転入生 沖縄から来た○○です。父の仕事の都合で、引っ越してきました。豊岡は初めてなので、よろしくお願いします。
まもなくして先生が教室を去り、子ども同士の会話が続く。
生徒1 でも、水泳部だったんでしょう?
転入生 沖縄じゃ、半年くらい泳げるから。
会話は続き、最後にはみんなで盛り上がる。
生徒2 え、じゃあ、○年になったら行こうよ、みんなで-。
教材の台本をもとに、児童たちがせりふを考える。
「タピオカの話題にしたらどうかな」「話がつながらない」。案を出し合い、普段の会話に近いせりふや意外な設定に変えていく。練習を繰り返しながら細かい言葉や動きを決め、教員らの前で堂々と発表した。
門間雄紀(12)は「みんなが出したせりふのどれを選ぶか、つなげるかを話し合いながら考えるのが難しかった」と振り返った。
授業の目標は、仲間と一緒に表現する喜びを実感することや、感性をすり合わせる合意形成の難しさを理解すること。平田は「これから世の中で必要とされる、異なる価値観や文化的背景をもつ相手と『折り合いをつける力』を養うため」と説明する。20年度から全面実施される新しい学習指導要領でも「主体的・対話的で深い学び」が求められている。
子どもが少ない地域ならではの効果もある。
ほとんどの小学校は1学年1学級しかないため、仲が良い半面、言葉にしなくても伝わり、関係性が固定化してしまう。「転入生」という異質な存在が現れることを通して、固定化した役割などを変化させるという。
中筋小6年担任の沢野は「普段は発言しない子が堂々と振る舞うなど、成長を感じる」と手応えを感じ、「普段の授業でも対話を大切にしたい」と話す。
市教育委員会は「教師にとっても新たな挑戦だが、演劇的手法を取り入れた授業は年3回のみ。通常の授業で自主的な発言や仲間との対話を促せるかがこれからの課題」とする。
=文中敬称略=
(石川 翠)