生きづらさと上手に付き合うこつは? 「ツレがうつになりまして。」の著者が会
2020/11/14 05:30
当事者研究会「生きるのヘタ会?」の参加者と向き合う細川貂々さん(中央奥)=8月、宝塚市立中央図書館
人間関係や仕事、コロナ禍で「生きづらい」とされる現代社会。苦労や弱さを他者と語り合うことで、自分を客観的に見つめる「当事者研究」が注目されている。約20年前に北海道の精神障害者の活動拠点で始まったが、障害にかかわらず各地に広がった。兵庫県宝塚市では漫画家の細川貂々(てんてん)さん(51)が集まりを持ち、生きづらさとうまく付き合うこつを探っている。(中島摩子)
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うつを患った夫との夫婦での闘病記「ツレがうつになりまして。」(幻冬舎)などの著書で知られる細川さん。母親の影響で子どものころから「ネガティブ思考」が強く、ずっと生きづらさを抱えてきた。
そんな細川さんが進行役を務めるのが「生きるのヘタ会?」。昨秋から宝塚市立中央図書館で月1回開いている。毎回10~15人参加。名前や住所地、職業などは明かさず、ニックネームでやりとり。語られる悩みはさまざまだ。
「人付き合いが得意じゃありません」「完璧主義を手放したい」「子育てが下手」「コロナでピリピリしています」-。
一人が発言すると、ほかの参加者が「私も」と共感したり、自分の経験を語ったり。細川さんは「しゃべることで、自分が何に悩んでいるか理解できる。人の悩みを聞いているだけでも、『私だけじゃない』とほっとできる」と解説する。「自分の弱さを自覚できたら、客観的になり、そのままの自分との付き合い方がうまくなると思う」
◇ ◇
当事者研究は2001年、「弱さの情報公開」などを理念に、北海道浦河町にある精神障害者の活動拠点「べてるの家」で始まった。
その後、依存症や発達障害のグループなどが実践し、近年はあらゆる人に広まりつつある。関西には少なくとも13団体あるといい、昨年には関西当事者研究交流集会を大阪大で開催。モテない苦労を抱える人を対象にした「ぼくらの非モテ研究会」(大阪府)など多様なグループが活動している。
最近では、関連図書の出版が相次ぐ。9月には非モテ研究会による「モテないけど生きてます 苦悩する男たちの当事者研究」(青弓社)が発売された。東京大学先端科学研究所の熊谷晋一郎准教授(43)による「お母さんの当事者研究」(ジャパンマシニスト社)なども話題だ。
活発化の背景について、大阪市の研究会「づら研」のコーディネーターで、関西学院大社会学部の貴戸理恵准教授(42)は「経済格差や成果主義がまん延し、マイノリティーや社会的弱者だけでなく、生きづらさを抱えている人は多い」と指摘。「自分自身の違和感からスタートし、『今のままでいいの?』と、社会を考えることにもつながればいい」と話す。
■困りごと=「悪」ではない
【当事者研究発祥の「べてるの家」の理事で、北海道医療大教授、向谷地生良(むかいやち・いくよし)さん(64)の話】もともとは統合失調症を抱え、周囲とトラブルに悩む青年と「一緒に研究しよう」と始めた。困りごとを単に「悪いもの」「問題」と扱うのではない。研究という言葉を使っているように、自分を観察し、仲間と話し合いながら、生きる知恵を共有するのが当事者研究だ。
病気になるほど生きづらさが煮詰まった人が生きやすくなる。それだけに、この手法は誰にとっても生かせると思う。
社会は不確かで問題だらけ。誰もが抱える悩みや苦しみはむしろ大切な経験として発信し、どうすれば解消できるかを対話しながら探る場があれば、社会はもっと生きやすくなる。