神戸で「至高の小磯良平」展 実業家の収集品基に
2021/01/12 16:24
軽快で素早いタッチによる小磯良平の油彩画「化粧する舞妓」(1958年)=大野ギャラリー所蔵
広島の実業家大野輝夫氏の収集品を基にした特別展「至高の小磯良平 大野コレクションのすべて」(神戸新聞社など主催)が神戸市東灘区の市立小磯記念美術館で催されている。小磯に関する国内有数のコレクションから厳選した約90点を出展。清楚さ、典雅さ。小磯芸術の粋ともいえる女性美を堪能できる優品がそろい、コロナ禍の不安の中で、忘れかけていた「絵を見る喜び」を思い出させてくれる。(堀井正純)
関連ニュース
小磯の名画「化粧する舞妓」モデルの女性、30年ぶりに絵と再会 神戸
【詳報】兵庫で304人感染 病床使用率は1カ月ぶり50%以下に
【速報】神戸で102人感染 1週間前から3割減
大野氏は1978年、1枚の版画に魅了され、購入したことをきっかけに、神戸が誇る洋画界の巨匠・小磯良平(03~88年)の作品を収集。小磯が得意とした人物画を中心に、油彩画や素描など計359点を手に入れた。「一つのコレクションで、初期から晩年までの画風の変遷を見て取れる」と、同館の岡泰正館長はその充実ぶりに目を見張る。本コレクションがまとめて公開されるのは、関西では初となる。
版画や素描の秀作が多く、収集第1号のリトグラフ「裸婦」も展示。ラフなタッチの若い女性の半裸座像で、物思いに沈み、無意識に髪をなでつけている風でもある。個人的に、石版画「フェルナンドの肖像」に描かれた、ほおづえをついた青年のまなざしにひかれた。
人体デッサンは、西洋美術の基礎ともいえ、素描の数々は、卓越した画力や日々の鍛錬を雄弁に物語る。赤チョークで筋骨隆々たる裸体モデルの肉体美を捉えたデッサンは、ルネサンスの巨匠ミケランジェロをほうふつとさせる。
晩年、小磯が情熱を傾けた迎賓館赤坂離宮(東京)の壁画「音楽」「絵画」のため描いた、パステルによる素描の数々は美術史的に極めて重要。大作に取り組んだ巨匠の試行錯誤の跡が確かめられる。
油彩画でも、素描に通じるような素早い筆さばきや省略を生かした名品が少なくない。知り合いの少女がモデルの「D嬢の像」は、画面下部が塗り残しで背景も省略。肖像画としては未完成作とも思えるほどだが、一気に描き上げたような表現によって、精彩ある絵となった。「少女の生命力をとらえることができれば、それ以上の描写は蛇足と考えていたのだろう」と岡館長は推測する。
「化粧する舞妓」も同様で、手鏡で髪飾りを整える舞妓の自然なしぐさを、勢いのある軽快な筆致で表現した。顔と髪の描写は丁寧だが、全体に即興的で、余白を生かし、まさに油絵によるスケッチのよう。おしろいを塗った白い顔の美が引き立つ。
この舞妓と出会い、画伯は「おもろい顔やなあ」と、食い入るように見つめたという。本作は京都・先斗町の茶屋で本人を前に制作。小磯は気に入ったモデルで何枚も描くことが多く、この舞妓で少なくとも10点の油彩画を手掛けた。創作欲を刺激する「おもろい顔」を前にした、画家の興奮、「描く喜び」が伝わってくるようだ。
3月21日まで。月曜休館。800円ほか。同館TEL078・857・5880