店名の由来は飼い主守った犬との思い出 食感サクサクの揚げパン専門店

2021/02/03 16:50

「揚げパンらしくない」見た目で、手土産としても人気=芦屋市東芦屋町5

 阪神・淡路大震災で被災したことをきっかけに、共に暮らしたが、飼い主を守って命を落とした「忠犬パイク」。実話を基にした絵本「パイクとそら」から生まれた揚げパン専門店が、兵庫県芦屋市にある。何げない日常や人との縁を大切にと、手作業で丁寧につくられたパンが、新たな縁をつむいでいる。(萩原 真) 関連ニュース 【写真】集合住宅のレトロな雰囲気がぴったりの外観 【写真】自身が考案した絵本「パイクとそら」と川端輝彦さん なぜ今、人気?高級食パン 神戸に相次ぎ新規出店

 阪急芦屋川駅から歩いてすぐ、築50年のレトロな集合住宅一階にある「芦屋あげパン パイクとそら」。香ばしいパンの香りと店主の川端輝彦さん(45)、妻かおりさん(45)の朗らかな声に満ちた店には、ひっきりなしに客が訪れる。
 約20年、百貨店の婦人洋品売り場を担当した輝彦さん。関連企業に出向し商業施設の改装を手掛けた際、京都の人気揚げパン店に出合い、おいしさと独自の製法に魅了された。思い切って退職し、同店で修業。2019年2月、「パイクとそら」を開店させた。
 雑種「パイク」との生活はそれ以前に始まっていた。飼われていた祖父母宅が震災で半壊し、新たに家を建て、輝彦さんらと暮らすように。調教師に厳しくしつけられすっかり「弱虫」になったはずが、輝彦さんの「おとうさん」と散歩中、突進してきたイノシシに飛びかかり、崖をすべり落ちた。どれだけ懸命に探しても、二度と会えなかった。
 思い出を絵本にするのが、輝彦さんの長年の夢だった。文章を考え、温かみのある作風のイラストレーターに絵を依頼し、18年9月に発行した。現在は完売し、店内で閲覧できる。
 「すべてのものが、縁により生じる。一日一日を大切に」-。巻末につづった思いを体現できるようにと、絵本のタイトルをそのまま店名にした。
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 パン製造は、香りとフワフワの食感が両立できるよう天然酵母とドライイーストを混ぜ、こまめにガスを抜く。品質を左右する包あんのタイミングを、気温や湿度に合わせ慎重に見極める。脂っこくなくサクサクの食感の秘密は、パンの周りにまぶした「穀物粉」と、頻繁に交換する新鮮な油。独特のべたつきや重さがない“新感覚”の揚げパンに客は驚く。
 一番人気の「あん揚げパン」(260円)は、大阪の老舗製あん所から仕入れたあんでもちをくるみ、食べ応えたっぷり。「クリーム揚げパン」(同)はカスタードクリームにクリームチーズを練りこんだ。
 新型コロナ禍で自殺者が増えるなどの状況を憂え、「子は宝。子どもの笑顔で地域を明るくしたい」と今年1月16日、「笑顔のあげパンプロジェクト」を始めた。寄付100円につき揚げパン1個を、毎月最終水曜に神戸市の母子生活支援施設に届ける。さっそく想定を超える寄付が集まり、今後は芦屋市商工会などでも呼び掛け賛同店を増やしていきたいという。
 揚げパンはほかに、カレー(260円)、プレーン(210円)など。店内飲食も可能で、滋賀県の窯元で手作りされた「布引焼」の器を使い、オーガニックコーヒー(500円)なども提供する。午前10時~午後6時。水曜定休。TEL0797・61・5835

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